21世紀に入り、9倍になった金価格が意味するもの

 21世紀に入ってから、すでに金価格は9倍にまで上昇しており、株式の投資成果を大きく上回っている。図2で確認できるように、2020年代前半も年率11%を超えるペースで上昇しており、足元の上昇率は、徐々に高まっていることを忘れてはならない(図2の赤色の棒グラフ)。

再掲【図2】米消費者物価指数と主要商品価格
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 それだけ安全資産への資金流入が続いていることは、地政学リスクの高まりとともに、商品価格が不安定な状況も続くと考える人々が多い証左である。

 ところが興味深いことに、このような商品価格の上昇は、米国の消費者物価指数に代表される物価全体を大きく左右しているわけではないのに気がつく。

 一般に原油や小麦といった商品価格の変動は、多種多様な財・サービスの価格を集約した消費者物価の変動よりも大きいとされる。しかし、2000年代を通して、米国の消費者物価指数は、年率2.5%程度の上昇に過ぎない。これは、相当低い水準であると言えよう(図2の折れ線グラフ)。

 その要因の一つとしては、米国などの先進国経済が、構造的に変化していることも挙げられよう。

 従来の経済の主軸であった米国経済では、モノを消費する産業社会から、データや情報が付加価値を生む情報社会に転じていたため、商品価格の上昇圧力は、産業社会から情報社会への構造転換が進む中で後退している。脱産業化が進む米国では、商品価格の変動に対する耐性が高まっている可能性が高い。