路面電車が世界で大復活している理由

 路面電車はかつて、世界でも日本でも都市の主要な交通機関として発達を遂げていました。日本の最盛期は戦前の1932年。当時は全国67都市で83事業者が運行しており、東京では都営の路面電車「都電」が網の目のように走っていました。

 ところが、戦後の日本では、高度経済成長に伴って自動車優先の交通社会が出来上がるにつれ、路面電車は急速に姿を消していきます。道路上をノロノロと進む路面電車は渋滞の元凶とされ、輸送効率も悪いとの批判が沸騰。大都市圏では、より輸送能力の高い地下鉄に置き換わっていきました。

 その路面電車の見直し機運が高まったのは、1990年代の欧州でした。復権の理由は下記のようにいくつかあります。

◎排気ガスを出すクルマから温暖化効果ガスを出さない交通へのシフト
◎クルマ中心の社会ではなく、高齢化社会に優しい乗り物の必要性
◎中心街ににぎわいを取り戻す都市再生と新たな交通ネットワークの必要性

 フランスでは1930年代に路面電車がほぼ消えていましたが、増えすぎた自動車を抑制するために、2006年に首都パリで69年ぶりに路面電車が復活し、その後も延伸や新路線の建設が進んでいます。同じくフランスでは、ストラスブールやナントなどの都市でも新設。ドイツ、英国などでも新規開業が相次ぎました。いずれのケースも「車優先社会から人中心の社会へ」を目標に掲げています。

フランス・パリを走る路面電車(写真:松尾/アフロ)

 この傾向が現在も止まっていません。

 国際公共交通連合(UITP, Union Internationale des Transport Publics)が2021年にまとめた資料によると、同年現在、世界では総延長1万5824キロのLRTネットワークが稼働しています。そのうち58%は欧州でした。その欧州では、2016〜2021年の5年間、総延長624キロのLRTが新たに開業。世界の総延長は2015年以降、年平均で1%ずつ増えているとしています。

 また、世界で約3万7000両に上る路面電車の車両は、急速にLRT用の低床車両に置き換わってきました。UITPは2015年に世界で32%だった低床車両のシェアは2021年に45%になったとしています。そうした結果、1990年代に始まった「LRTルネッサンス期」は今も続いており、「中小規模の都市では公共交通システムの基幹となり、大都市では地下鉄システムをサポートする追加路線として機能」していると、UITPは指摘しています。

 日本で現在、静岡県浜松市や和歌山市、沖縄県那覇市などでLRTの新規開業に向けた計画や構想が浮上しています。山梨県では富士山登山鉄道をLRTで建設しようとの構想も進められています。一方、東京の池袋―東池袋間のように、事実上、とん挫した構想も少なくありません。宇都宮の事業が順調に進んでいるのは、まちづくりと一体化した計画だったからです。宇都宮に続く成功例が出るかどうかも、その点にかかっていると言えるでしょう。

フロントラインプレス
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