野茂・イチロー・松井、そして大谷が常識を覆す

 松井氏は勝負強い打撃で打点を重ね、常勝軍団のヤンキースで活躍を続けたが、その後も日本人野手は20本前後の本塁打とある程度の打率を残す中距離打者として期待されることが多かった。メジャーの球場は広く、球速150キロを優に超えるパワー投手に力負けすることが一因とされた。

 こうした常識を覆したのが、「野手・大谷」でもあった。

レギュラーシーズンラストとなる197安打を放つ大谷選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 自身初のリーグMVPを獲得したエンゼルス時代の21年に46本塁打をマークすると、22年に34本塁打、そして23年は44本塁打で日本選手、アジア全体でも初となる本塁打王のタイトルを獲得した。そして、今季は54本塁打を放ち、2年連続で本塁打王に輝き、さらには「日本のスピード」の象徴だったイチロー氏が持つ日本選手最多56盗塁も上回った。パワーもスピードも兼ね備え、メジャーでも希有な存在となった。

 メジャー史に刻む数多くの記録は、時空を超えて、様々な数字をファンに呼び起こさせた。

 22年シーズンは、「野球の神様」と呼ばれたベーブ・ルース以来、104年ぶりとなる同一シーズンでの「2桁勝利、2桁本塁打」の偉業を成し遂げた。

 21年シーズンも9勝で偉業に王手をかけており、日米の報道ではルース氏との比較報道が数多くみられた。

 同年オフ、大谷選手は日本に帰国した際に東京・日本記者クラブで会見を行った。

 このときにはルース氏と比較される感覚について「比較していただけるだけで、とても光栄なこと。もちろん残した数字だけではない方で、そこが一番すごい。いつまでも覚えてもらえる選手というのは、なかなかなれることではないので、そこは選手として1つ目指すべきものだと思います」と語っていた。

 今季の大谷選手の成績は、まさに後世に語り継がれる伝説の領域へと足を踏み入れたと言える。

 一方で、シーズンには「先」がある。

 大谷選手自身、初めて経験するプレーオフだ。