レギュラーシーズンとプレーオフは別物

「865」は、大谷選手のファンならご存じの数字だろう。大谷選手が前人未到の「50-50」を達成した9月19日、ドジャースはプレーオフ進出を決めた。出場866試合目でプレーオフ進出を決めたのは現役選手では最長だった。

 過去6シーズン在籍したエンゼルス時代は、どれだけ投げて、打って、活躍を続けてもチームとしてプレーオフに出るチャンスには恵まれなかった。21年9月には「もっともっと楽しい、ヒリヒリするような9月を過ごしたい」とプレーオフへの思いを口にしたこともある。

盗塁でもすばらしい成績を残した(写真:AP/アフロ)

 今季から移籍した強豪ドジャースでは、シーズン途中から「1番・DH」が指定席となった。強力打線にあって、大谷選手との勝負を避ければ傷口が広げてしまう。頼もしい仲間とともに、その打棒を恐ろしいまでに見せつけた。そして、「ずっと夢に見ていたところ」というポストシーズンへようやくたどり着いたのだ。

 ここからは別次元の戦いが待ち受ける。ある元メジャーリーガーは「レギュラーシーズンとプレーオフは別物」だという。春先は低調な選手もシーズンが佳境に入るにつれて調子を上げ、ポストシーズンへ照準を絞ってくる。だからといって、大谷選手に不安はないはずだ。

 優勝争いを繰り広げた9月はむしろ、数字が上がっており、大事な試合での勝負強さを見せつけている。振り返れば、今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では日本中の期待を一身に背負って、侍ジャパンを頂点へと導き、自身はMVPを獲得した。

 随分と古い記憶のようにも感じるが、日本ハム時代にチームを日本一に導いた16年に日本シリーズでも第3戦でサヨナラ打を放つなど、打率.375の数字を残している。大舞台でも、頼れる存在に変わりはないだろう。

 ドジャースは故障者続出の先発陣の手薄さが懸念されるが、報道で一時あった大谷選手の投手復帰はリリーフであっても現実的ではない。報道によれば、大谷選手は最終戦後の取材に対し、「ここから先はシーズン中に積み上げた成績や数字は意味がない。しっかり自分の調子を維持し、気持ちを切らさずにその間の日を過ごしていきたい」と決意をにじませていた。

 プレーオフは地区シリーズ(5回戦制)、リーグ優勝決定シリーズ(7回戦制)、そしてワールドシリーズ(7回戦制)。最大19試合で、11勝を手にした先に最大の栄光が待っている。

田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。