中長期的に不安なリフレ思想の再燃

 長期的に筆者が不安視するのは、ポスト石破後の政治・経済を見通した場合の懸念だ。

 今回は通貨・金融政策に対してタカ派的な姿勢で知られる石破総裁が誕生したため、その懸念は小さいが、高市氏が接戦を演じたことの意味は軽視できない。万が一、石破新政権の運営が早期に頓挫してしまった場合、再びリフレ政策への期待が浮上してくる可能性はないとは言えない。

 第二次安倍政権があれほどのリフレ思想に染まった背景には2000年8月、日銀が政府の議決延期請求権を振り切ってゼロ金利政策の解除を決定し、政府と日銀の溝が深まったという出来事が発端になっているという説は強い。当時、官房副長官だった安倍氏が強い怨恨の下、第二次政権でリフレ思想を全面展開したという話である。

 財政・金融政策に対してタカ派的な石破政権が(どのような経緯であれ)失敗との烙印を押された場合、必然的に「では対照的な思想の持主に……」という発想に世論が動く可能性は十分ある。

 まだ、石破氏が首相に指名される前に持ち出す話ではないが、半年前に石破氏が首相になると思っていた向きは皆無に近い。市場参加者においては頭の片隅に置いてもよいリスクシナリオの1つだろう。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年9月30日時点の分析です

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。