もはや従業員を犠牲にした利益追求は許されない時代に

 民間企業ではかつて、「お客様は神様」と持ち上げる一方、社員に土下座させたり暴言を浴びせたり、過剰なノルマを課したりするところが少なくなかった。

 ところが近年は人権意識の高まりとともに「ブラック企業」が批判にさらされ、2020年にいわゆる「パワハラ防止法」が施行されるなど、従業員を犠牲にした利益追求はもはや許されなくなった。

 また以前なら理不尽な扱いに耐え忍んでいた従業員も、最近は転職の道を選んだり、SNSを通して声を上げたりするケースが増えてきた。

 さらにデジタル化やソフト化によって、以前とは仕事内容が変化したという事情もある。単純作業や定型的業務が減少し、個人の創造性や感性、判断力などが求められるようになった結果、強制や命令、上意下達式のマネジメントでは仕事の成果が上がらなくなったのだ。

 いかに従業員の自発的なモチベーションと仕事への関与を引き出すかがマネジメントにおける最大のテーマになっている。

 こうした世の中の変化とともに、わが国でも近年はES(Employee Satisfaction)、すなわち従業員満足の重視を唱える企業が増えてきた。CS(Customer Satisfaction=顧客満足度)を高めるためには、顧客に製品やサービスを提供する従業員自身の満足度を高めることが不可欠だという認識が浸透してきたのである。

 それは行政の世界も同じだ。とりわけ地方自治体の場合、かつては国からの機関委任事務をはじめ、ある意味で国の下請け的な業務が相当な割合を占めていたが、地方分権改革によって国と地方が対等な関係になり、自治体独自の業務が中心になってきた。

 そこでは現場の職員を含め、実際に行政に携わるそれぞれの職員がアイデアを出し合い、多岐にわたる業務を遂行していかなければ県政は発展しないし、多様な住民のニーズにきめ細かく対応することもできない。要するに組織が一体となって仕事に当たらないと住民の期待に応えることはできないのだ。

 歴代の名首長は、住民、職員、関係者それぞれのベクトル合わせに手腕を発揮し、長期的に実績を上げてきた。いくら選挙で選ばれた知事でも、選んだ選挙民のほうだけを向いていては職員の意欲と能力を十分に活用できず、結果的に選挙民の利益にも反することになりかねない。