吉田氏は一昔前の話を描いているように見せているが、実は現代社会を描写していたのである。だから従来の一部連続テレビ小説と違って古さを感じさせず、現代人の胸を揺さぶった。
難しいテーマにあえて挑む
そもそも憲法第14条の「法の下の平等」をテーマにしたところが良かった。物語も寅子が1946年にこの第14条を目にするところから始まった。
この条文が嫌いな人はあまりいないはず。格好のテーマだった。それでいてドラマのテーマになったことは皆無に等しく、過去には1965年のNET(現テレビ朝日)『判決』が扱っただけだった。
なぜ、第14条を描いたドラマがほとんどないかというと、憲法は描くのが難しいから。どうしても観る側の賛否が分かれてしまう。『虎に翼』による反差別のメッセージにも視聴者の一部から違和感を唱える声が上がった。
それでも吉田氏は第14条に徹底的にこだわった。反対意見には目を瞑ろうと思ったのではないか。視聴者が誰ひとり文句を言わないドラマをつくろうとすると、無味乾燥な作品になってしまいがちだ。