冷めた発言のようだが、そうではない。よねは世の中に数え切れぬほどの不平等と不遇があることを知っている。寅子のスピーチにも通じる。

 寅子はスピーチでこうも言っていた。「生い立ちや、信念や、格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います」(寅子)。

 寅子とよねのその後を暗示する言葉だった。

明律大同級生それぞれの輝く生き様

 一方、よねは117回、「救いようもない世の中を少しでもマシにしたい」と言った。弱者救済を目指し、不正義に抗うという点で寅子とよねの考え方は一緒だった。反目する時期もあった2人だが、実はコインの裏表のような関係だったのではないか。

朝ドラ「虎に翼」公式Xより
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 同じく同級生で弁護士になったチェ・ヒャンスク(ハ・ヨンス)は夫で裁判官の汐見圭(平埜生成)とともに、朝鮮人や中国人、台湾人の原爆被爆者の救済に当たることを決めた。121回だった。やはり弱者の救済であり、不正義との対決である。

 ヒャンスクは28回に朝鮮へ帰国し、53回に再来日したものの、その時点から香子という日本名を使っていた。差別を避けるためだ。だが、120回から本名を名乗る。朝鮮人として生きていく決意を固めたから、原爆被爆者の同胞たちを救うことにしたのである。

 桜川涼子(桜井ユキ)は司法試験に受かったものの、司法修習生になるつもりはない。司法試験受験生の支援にまわる。一方で、元付き人で今は下半身が不自由な玉(羽瀬川なぎ)は親友として行動を共にしている。

 涼子は84回、「玉と生きていくことが幸せ」と泣いた。このドラマは寅子の事実婚や轟の同性愛などさまざまなパートナーの姿を描いたが、涼子と玉の組み合わせも吉田氏が考えたパートナーの姿なのだ。

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 終幕が迫ってみると、明律大で法律家を志した女性たちの大河ドラマだった。

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 玉音放送がなかった理由もはっきりした。寅子たちにとって戦前と戦後の区切りは1945年の終戦時ではない。憲法が公布され、法の下の平等を手にした1946年だったのである。