「つまらなくなった」と言われるドラマに起きた革命

「ドラマがつまらなくなった」という声をよく聞く。その理由の1つは覚悟のないドラマが増えたことではないか。

 ドラマ大国の米国は批判を恐れない。政府やFBI、CIAの暗部を取材に基づいて描く。一方でアルカイダなどのテロ組織も臆せずに登場させる。9・11テロなども描く。それによって真実味が担保される。

 Netflixなどの動画に押されている日本のドラマも安全主義を続けていると、後退するばかりだろう。『虎に翼』はモデルケースになる。

 寅子たちが明律大の学生で、ピュアな青春群像劇になっていた第27回までのほうが面白かったという声もある。もっとも、本編と呼べるのは寅子の大学卒業後にほかならない。吉田氏のメッセージがどんどん鮮明になってきた。

 区切りは寅子の高等試験(現司法試験)合格時のスピーチだった。第30回である。このスピーチが後半になって具体化していった。こんなスピーチだった。

「高等試験に合格しただけで自分が女性の中で一番なんて、口が裂けても言えません。志半ばであきらめた友、そもそも学ぶことが出来なかった、その選択肢があることすら知らなかったご婦人方がいることを私は知っているのですから」

 117回から登場した斧ヶ岳美位子(石橋菜津美)も学べなかった1人だ。美位子は幼いころから父親に暴力で支配され、長年にわたって性暴力を受けた。子供も2人生まされた。最後は父親を殺した。

朝ドラ「虎に翼」公式Xより
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 当時は親を殺すと刑法200条の尊属殺人罪に問われ、刑罰は死刑か無期懲役。刑法199条の殺人罪よりはるかに重い刑罰を課された。裁判官になった寅子に代わって弁護を引き受けたのは山田よねと同じく同級生の轟太一(戸塚純貴)である。

 よねは自分も辛酸を舐めてきたため、美位子を救おうと躍起になっている。一方で美位子の境遇は数奇なものではないとも考えている。

「(父親の行為は)おぞましく、人の所業とは思えぬ事件だが、決して珍しいものでもない。ありふれた悲劇だ」(よね)