過去だけでなく現代社会にも突き刺さる寅子やよねのセリフ
この裁判は学校ではほとんど教えない。ドラマで扱われたことも1度としてない。そんな背景があるから関心を集めたのはうなずける。そうでなくても約33万人の市民が暮らしていた広島市と約27万人の市民が住んでいた長崎市への原爆投下に無関心でいられる人はいないはずだ。
ただし、原爆裁判を取り上げるのには相当の覚悟がいったはず。米国批判、被爆者への補償を怠った国に対する批判は避けられないからだ。国内ドラマは国の批判をやりたがらない。
しかし吉田氏はやった。そのうえ、史実を追うだけにとどまらなかった。寅子にこんなセリフを与えた。原爆裁判中の113回だった。
「なぜ、いつも国家の名の下で個人が苦しまなくてはならないの」(寅子)
原爆裁判の描写に必要不可欠なセリフとは言えなかったが、吉田氏はあえてこのセリフを使った。おそらくダブルミーニングだ。現代社会にも当てはまる言葉だから使ったのだろう。
寅子の明律大時代の同級生で弁護士の山田よね(土居志央梨)による次のセリフもダブルミーニングに違いない。114回、よねは被爆者・吉田ミキ(入山法子)が証人として出廷することを止めた。被爆で傷ついたミキが世間の矢面に立たされる恐れがあったからだ。よねはミキにこう言った。
「声を上げた女にこの社会は容赦なく石を投げてくる」(よね)
やはり現代社会を表すセリフだった。性的被害やセクハラを訴える女性が攻撃され、政治を語る女性芸能人らに逆風が吹く。