SNSウケする動画で「王室離れ」を阻止したい?

 英メディアは当初、これが「王室広報の新しい手法」と評価するなど、概ね好意的な論調であった。また、これまで公の場では滅多に愛情表現を行なってこなかった夫妻が、突然新婚カップルのような熱愛ぶりを見せたことを「王室の絆の強さ」「並外れた献身」などとも評した*1

*1Scenes of Prince and Princess of Wales kissing reflect their love in a time of turmoil(The Telegraph)

 エリザベス女王が死去した際、ヘンリー王子夫妻が喪服姿で手を繋ぎ歩いただけで「はしたない」などと世論の猛批判を浴びた状況とは雲泥の差である。

 今回の動画で、子供たちの前で寝転んだキャサリン妃の上にウィリアム皇太子が覆い被さる映像などに仰天したのは、筆者だけではなかったようだ。公開から数日経つと、筆者の感じたものと同様の違和感を伝えるメディアが続出した。

まるで「シャンプーの宣伝」のよう?(提供:Prince and Princess of Wales Instagram/Best Image/アフロ)

 英スタンダード紙は、髪をなびかせて草原をスローモーションで歩くキャサリン妃を「おぞましいシャンプーの宣伝」と酷評。米デイリー・ビーストは手を繋いだり、横たわって抱きあったりした皇太子夫妻が「カルバン・クラインのCM出演を待っているかのようだ」と書いている。「あれは一体なんだ」と書いた媒体もあった。筆者も同意である*2,*3

*2I'm delighted the Princess of Wales is getting better, but that dreadful video was like a shampoo advert(The Standard)

*3Kate Middleton’s Video Is About Way More Than Her Cancer Recovery(DAILY BEAST)

 複数のメディアが指摘していることだが、この動画は王室の存続意義を保つため既存メディアをバイパスし、SNSで直接、王室の思い描く通りのイメージを作り上げて発信する戦略では、という分析が一番しっくりくる。王室にとって、世代が若くなるにつれ高まるであろう「王室不要論」は断固阻止しなければならない。特にSNSを駆使する世代には、王室は好ましい存在であり続ける必要がある。SNSウケしやすい動画制作を行う理由は、この辺りにあるように感じられる。

 スペインのエル・パイス紙は、キャサリン妃は一般市民として過ごした経験があり、「普通」の生活を理解しているという専門家の話を引用している。キャサリン妃による「普通さ」の演出についてのウィリアム皇太子への助言は、非常に重要なのだという*4

*4Kate Middleton’s controversial strategy to control her cancer story(EL PAIS)