動画に共感できないがん患者

 こうした議論とは別に、キャサリン妃の動画が批判を受けるに値する、ある重要な指摘がある。英ガーディアン紙が記した、がん治療を受ける人たちの視点だ*5

*5Kate’s recovery is great news – but be wary of a soft-focus view of life after chemo(The Guardian)

 この記事の執筆者は、自らの乳がん治療体験を綴っている。そして、自身が同じように化学療法を終えた時の動画を作ったとしたら、キャサリン妃とは全く違ったものを描いただろうと書いた。過酷な化学療法で大量の毛髪が抜け、治療後も疲労で休み休み生活をせざるを得なかったことや、一人涙を流したこと。また、がんの恐怖で怒りや不安を感じ、些細なことで家族に当たり散らしてしまったことなどを告白した。

仲睦まじいことは伝わってくるが…(提供:Prince and Princess of Wales Instagram/Best Image/アフロ)

 多くのがん患者は「生涯、癒し難いであろう精神的、そして身体的傷を負っている」とも書いた。

 同じ治療を受けた者としてキャサリン妃の動画には到底共感しがたく、患者とその家族が感じている負担を軽視していると批判した。「あの動画は見なければよかった」とまで書いている。動画に共感できないと悩む読者に対して、それでも大丈夫だと呼びかけた。

 この記事に対する読者の声には、動画が「不快で独りよがり」「治療を経験した人たちへの侮辱」などとして、制作した広報やキャサリン妃自身への批判が綴られている。ある人はがん治療によって、一般市民である自身は住宅ローンなどの生活費をどう賄うのかと苦しみ、そのような苦労のない特権階級の王室によるこの動画制作に共感できないと書いている*6

*6Dealing with disquiet over Kate’s cancer video(The Guardian)

 この動画がキャサリン妃が印象付けたかったであろう「普通」の皇太子一家を描くことに失敗していることを示す一例だろう。