誰がなっても課題となる「金利のある世界」への対応

 いずれにせよ、現時点では必勝が約束された候補はおらず、また各候補の財政・金融政策への思想もよく分からないので、実のある議論を展開しづらい。

 ただ、今後の日本が人口減少を背景として名目賃金の上昇が持続性を伴うのだとすれば、デフレからインフレへ、という経済環境の変化は不可避である。

 それは「金利のない世界」から「金利のある世界」への局面変化も意味する。誰が総裁(ひいては総理)になるとしても、四半世紀以上も変わらなかった財政・金融政策の大前提が変わる中、新政権の経済政策は執行されなければならない。

 その大前提の変化は何を意味するのか。一般論に倣えば、「金利のある世界」での歳出は「金利のない世界」でのそれに比べて抑制的であることを求められ、いわゆるバラマキと揶揄される拡張財政路線は望む・望まないにかかわらずやりづらくなる。しかし、それが嫌だからと言って「金利のない世界」を志向すれば、今度は円安がぶり返す。

 結局、新総裁は「円安か金利上昇の二者択一」を迫られる中、今までよりも制限された経済政策(財政・金融政策)の手札で戦うことが強いられる。何かにつけて低所得世帯に財政出動を頻発するような財政運営を重ねていれば、為政者の制御が働きにくい為替市場において野放図な通貨安のリスクが高まるだけだろう。

 誰が当選しようと、選択できる経済政策の組み合わせが過去の政権よりも限定的になるのは間違いない。財政・金融政策の在り方よりも、夫婦別姓や解雇規制緩和などが争点化している選挙戦の現状が既にその先行きを暗示しているようにも思える。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年9月18日時点の分析です

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。