「JTCの温存」も単身世帯化の一因か

河田:私もアメリカの大学院で修士課程を修了したのである程度分かるのですが、「自分たちの世代は親世代より豊かな生活を送ることができる」と考えている若い人は少なくなってきていると思います。

 人口が増え、経済が右肩あがりに成長している時代は「私も所帯を持って、温かい家庭を築きたい」と自然に考えるのでしょうが、今のような不確実性の高い経済状況において、そんなものは夢のまた夢、と思ってしまうのでしょう。

 日本でもネットスラングに「JTC(Japanese Traditional Company)」というものがあります。いわゆる昔ながらの大企業を指すことが多いですが、日本独自の会社ルールや人間関係のしがらみ、上がらない給料などを揶揄する言葉として使われています。JTCの実態が、転職サイトの口コミで分かるようになったことも、単身者の労働意欲をなくさせている要因ではないでしょうか。

 私が就職した2010年頃はまだインターネット上の就職・転職関連の口コミは玉石混交だったように思いますが、現在は口コミが相当蓄積されてきたことから、かなり実態に近づけるようになっている印象です。

 転職サイトでJTCの悪口ばかり書いてあると、転職者もやる気を無くしますし「今の環境も悪いけど、結局どこに行っても同じだ」と諦めてしまい、仕事に精を出さなくなる、そのことで家族を持ちにくくなる、という現象も起きていると感じます。

──某大企業の管理職が「最近の若手はすぐやめる、実家に帰れるからだ」と平然と発言していたのを聞いたことがあります。

河田:管理職の方々の気持ちも分かるのです。私は現場にいる20代と管理職の世代である40〜50代の中間の世代の人間で、確かに20代の子たちに対して「そんなこと、我慢したら」と思うこともある。ただ、人間はみな歳をとりますから、今の20代が社会の中枢を占める時が必ずきます。

 その時に、いつまでも過去のやり方に拘泥していると、誰もついてこなくなるでしょう。現実的には、今の若い世代の言うこともきいていかないといけないと思います。

 そうした状況で、ここ数年の賃上げは労働のモチベーション向上に多少は寄与したのではないでしょうか。若い世代が「普通の幸せ」を現実のものとして認識できるようにするためにも、この流れは止めてはいけないと思います。さもないと、みんな結婚しないでFIREしようとする世の中になってしまいますよ。

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