「私の仕事は世界中の国から10万人を集めて戦わせることだ」

 ルース容疑者と4人は欧州連合(EU)加盟国のナンバープレートがついた支援活動用バンに乗り込んだ。ルース容疑者から「一緒に荷台に乗っていくか」と誘われたが、断った。どこに行くのかは教えてもらえなかった。危険地での支援活動か、戦闘任務なのか判別がつかなかった。

 ルース容疑者の態度や話し方は「飄々」という表現がピッタリくる。「各国政府は自国民がウクライナで戦うのを望まない。プーチンはウクライナのために戦う外国人志願兵に4万ユーロの懸賞金をかけている。私のような民間人は2万ユーロだ」

「だから自分のことを話さないし、人目に触れるのを嫌うんだ。秘密を保っている。みんな殺されたくないからね。私も米国に帰ればロシアマフィアに殺される恐れがある。世界の指導者はウクライナに軍隊を送らない。プーチンが核兵器を持っているから恐れているんだ」

「私の仕事は世界中の国から10万人を集めて戦わせることだ。この戦争に勝つためには10万人、いや20万人、30万人が必要だ。5000~6000人ではこの戦争に勝つことはできない。これは白か黒か、善か悪かの戦いだ」

「善の側に立つのか、それとも悪の側に立つのか」

「善の側に立つのか、それとも悪の側に立つのか。善のために戦いたければキーウの独立記念碑のそばに座っているライアンを訪ねてくるだけでいい。すぐに前線に連れていってあげるよ」と言ったルース容疑者はその後、ウクライナを後にした。

 自由と民主主義国家で暗殺は絶対に許されるものではない。しかし「トランプ大統領返り咲き」でロシアがウクライナに勝利した形で戦争が終結するのをルース容疑者は受け入れることができなかったのだろう。しかし真相解明はFBIの捜査を待つほかない。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。