小さな成功体験よりたくさんの失敗体験

本城:そうです。最初目指していたのはエリート教育やリーダーシップ教育を手がける全寮制の中高一貫校でした。みんなが寮に入り、国内外の有力大学に進学するというエリート校。楽天を辞めた後、7~8年はこの方向で走っていました。

 軽井沢に移住した理由も、エリート校を想定していたからです。全寮制の中高一貫校をつくるとすれば、どこがふさわしいかということを考えた時に、東京から新幹線で1時間ほどの場所で、自然豊かな場所がいいな、と考えました。

 この時は高崎や宇都宮、熱海なども候補に挙がりましたが、軽井沢を見に来た時に「ああ、いい街だな」と感じたんですよね。経営者の別荘がたくさんあるのもいいな、と思いました。

 それで、軽井沢につくろうと決めて、学校をつくる場所を探し始め、場所もだいたい決まり、自分の子どもたちを入れる保育園や幼稚園を探している時に、森のようちえん ぴっぴと出合うんです。

──園舎を持たず、森の中で活動する保育園(認可外保育施設)ですね。

本城:はい。ぴっぴができて2年目、2009年の冬でしたが、自分の子どもを入れるために見学に行ったんです。初めのうちは「みんな楽しそうに遊んでいるな」「雪でも大丈夫そうだな」という程度の感想だったのですが、お昼ご飯の時に、ビックリするようなことがあって。

 その日は寒い日だったので、子どもたちはみんな焚き火のまわりで立ってお昼ご飯を食べていました。お昼のメニューは煮込みハンバーグと焼きおにぎり。ご飯を食べるために、子どもたちは手袋を外して薪のまわりに置いていました。

 その時に、ある男の子が薪のそばに手袋を置いたんです。どう見ても火に近く、避けてあげたほうがいいんじゃないかなと思って見ていると、案の定、手袋が焦げて、その男の子が泣き出した。スタッフの方も、手袋が燃えそうだということは分かっているんです。でも、見ているだけで何も言わなかった。

 その後、スタッフの方に「やっぱり(手袋が)近かったですね」と言うと、そのスタッフの方がニコニコして、「そうですよね。でも、先週は燃やしちゃったんですよ」と言うんです。この言葉がすごい衝撃で。

 先週は燃やして、今週は焦がした。どちらも失敗ですが、ちょっと良くなっているんです。この「ちょっと良くなっている」という感覚は、2回失敗しないと体感できません。この2回失敗できるということが素晴らしいと感じたんです。

 その頃、僕が目指していたのは、小さな成功体験をたくさん積み重ねるというタイプの学校でした。でも、ぴっぴの子どもたちを見て、たくさん失敗できることのほうが大事なんじゃないか。それを学ぼうと思って、学校づくりをいったんやめ、スタッフになることにしたんです。結局、7年間ぴっぴにいました。

──学校づくりをやめてしまったんですか。

本城:はい、やめました。その後、7年間、保育スタッフとして働きました。自分の子どもは入れずに。

──入れなかったんですか?

本城:はい。子どもを入れるとやりにくいので。