「観てればわかる」解説ばかり

 あれから50年が過ぎましたが、先日私はPTA関係のママさんバレーボールをやっている人たちと居酒屋で話していて、相変わらず「あのさ、拾ってつないで、また拾ってつないで10回を超えるラリーになるときもあるのに、どうしてバックアタック、複数のクイック、時間差や移動攻撃をあんな最中に打ち合わせられるの? そんな細かいサイン出してないよね?」なんて尋ねているのです。

 深く愛してきたスポーツなのに、どうしてこんな「ど素人丸出し」の質問をしているのかと言えば、それは、この50年間バレーボール関係者が誰一人として「どうしてそんなことが可能なのか」について、ただの一度も説明してくれなかったからです。

 本当です。バレーボール中継など(最近はもう地上波でもBSでも激減してしまいましたが)に出演する元選手の解説者は、もうだいたいこの3つぐらいしかお話ししてくれません。

「よく打ちましたね!」「高さがありましたね!」「ナイスサーブです!」

 どれもみんな「観てればわかるってばさ」と言いたくなるようなもので、こういう解説をもう半世紀もされ続け、そしていまだに聴いているのです。疑問は解消されませんから、9人制バレーなどという世界でもはや日本しかやっていないガラパゴス競技者のママたちになおもお尋ねするしかありません。

 つまり、私はバレーボールについての豊穣な言葉をこの50年くらい少しも増やすことなく、バレーボールの世界も本質も分節化(articulation)することもなく、それでいてこの競技への愛情を育ててきた奇特なおじさんなのです。

 この健気な私の状況を生み出したものは、「バレーボールなのにバレーボールの話をしてくれない」「サッカーのグッドゲームの直後にサッカーの話をしてくれない」、そして「心も躍る広島カープのサヨナラ勝ちなのにベースボールの話をしてくれない」、マス報道メディアのイジワルのせいです。あまり酷い言い方にならないようにそういうふうに言いますけど。