発売後、大きな話題を呼ぶ栗山英樹氏の新刊『監督の財産』。

 プロ野球監督とは、何をすべきで、どういう資質を身につけるべきなのか――。悩み、もがきながら気づいたことをまとめた。そのページ数は848ページにもなる。

 今回は『監督の財産』の一部をご紹介する。

教えるのではなく、気付ける選手を作る

(『監督の財産』収録「4 未徹在」より。執筆は2015年11月) 

 中島卓也はファウルを打つコツを覚えて、大きく成長した。

 このファウルを打つ技術は自分なりに理解しているつもりだが、第三者にそれを伝えようと思うと、論理立てて説明するのはなかなか難しい。

 ファイターズでは、バッターは2ストライクに追い込まれたら、最低限できることを精いっぱいやってチームに貢献する、具体的にはそこからなんとか粘って相手ピッチャーに少しでもダメージを与える、その意識付けを徹底させている。2ストライクアプローチという考え方だ。

 追い込まれたらヒットを打つことだけを考えていてはダメ。その可能性を高めるためにも厳しいボールはファウルにして粘ることが求められる。ファウルを打っているうちに、いつかヒットを打てるような球がくるから。

 しかも最近は大きく変化するのではなく、バッターの近くにきて小さく動くボールが増えているので、なおさらバットの芯で捉えるのは難しくなっている。だからこそのファウル打ちだ。

 しかし、そうしなさいと言われて、はいそうですかと簡単にできるものではなく、現実は苦戦している選手も多い。できるのは田中賢、中島、近藤といった実際に数字を残している選手で、2ストライクアプローチが打率にも直結することを物語っている。

 逆にそれができない選手は、追い込まれてからボールに飛びつくようなスイングで三振するケースが目に付く。