あるとき、ふとした瞬間に自分で気づくこと

 そんななか、シーズン中にあるテレビ番組を観ていて、ハッとさせられた。キャスター時代、僕も出演させてもらっていた「GET SPORTS」(テレビ朝日)という番組で、現役時代、2000本安打を達成した元ヤクルトスワローズの古田敦也さんが独自の打撃理論を解説していた。その理論が、そのままファウル打ちの極意にもつながる内容だったのだ。

 簡潔にまとめると、以下のようになる。一般的にボールを捉えるヒッティングポイントというのは、内角球だとやや前め(ピッチャー寄り)、外角球だとやや後ろめ(キャッチャー寄り)といったようにコースによって少しずつ変わってくる。

 それをすべて真ん中のボールを打つときのポイントと同じ位置で捉えることができたら、スイングを始めるタイミングはいつも一緒でよくなるので確率は上がる、というものだ。

 ファウルを打つコツもそれとまったく同じ理屈で、バットに当たる確率が上がるということは、ファウルになる確率も上がるということになる。

 しかも、内角球はバットの根っこでやや窮屈に、外角球はバットの先っぽでやや早めに捉えにいくことになるので、それもファウルになりやすい要因のひとつだ。ああ、こうやって練習すればいいんだ、というヒントをもらった気がした。

 それにしても、さすが古田さんだと思った。自分で実践できるだけでなく、他者にも分かりやすく伝えることができる。しかも、それは誰かに教えられたものではない。あるとき、ふとした瞬間に自分自身で気付いたものなのだ。そこが肝心だ。

 野球を教えていてはダメだ。教えていてもキリがない。

 ただ、自分で気付ける人を作るというのはアプローチがまったく異なるので、もっと幅を広げてあげられるかもしれない。それがいまの仕事だ。

 もし我々に選手が作れるならば、徹底的に教えこんで技術が上達した選手よりも、古田さんのように自分で気付ける選手、感じられる選手を作っていかなければならない。

(『監督の財産』収録「4 未徹在」より。執筆は2015年11月)

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