「理想のお父さん」ウォルズvs「ヘンな」トランプ

 ウォルズ氏は、ネブラスカ州の小さな街で生まれ育った。高校卒業後陸軍の州兵となり、その後高校教師となる。アメフト部の監督も務め、州選手権での初優勝に導いた。下院議員を経て、2018年州知事に選出された。

 すべての小学生から高校生までの学校給食と朝食の無料化や、中流階級の税金削減、生殖の自由の保障などに取り組み、実現してきた。同氏について「理想のお父さん像」と報じる米メディアも多い。

2023年3月、ミネソタ州で学校給食法案を成立させ、子供たちに囲まれて笑顔を見せるウォルズ知事(出所:ミネソタ州の地元メディアMPR News「Walz signs universal school meals bill into Minnesota law

 ウォルズ氏の対抗馬である共和党J.D.バンス副大統領候補が選ばれて早々、過去の「子なし猫好き女」発言を蒸し返され、盛大にトランプ氏の足を引っ張ってきたのとは対照的だ。

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バンス氏は気さくさの演出が逆効果も(写真:ロイター/アフロ)

 おまけにバンス氏は、政治家に必須であるコミュニケーション能力にも欠けるようだ。気さくさを演出しようとカメラを引き連れドーナツ屋に立ち寄り「私は副大統領候補だ」と店員に話しかけるも「あ、そう」とそっけなくあしらわれ、ろくに注文もできない始末。政策については、体外受精や、またレイプなどによる望まれない妊娠中絶に反対の立場を取り、もちろん民主党陣営から「Weird」の烙印を押されている。

 先月の民主党大会でウォルズ氏は「(元)教師を舐めてはいけない」と熱弁。体外受精や中絶など、今回の選挙戦の争点の一つである女性の体に関わる権利については、自身と妻が長年不妊治療に苦しんだ過去も告白した。ようやく授かった娘に希望という意味の「ホープ」と名付けたことを明かし、壇上から会場にいた娘と息子、妻への愛を堂々と宣言した*7

*7: Tim Walz delivers pep talk in full speech at 2024 Democratic National Convention(PBS NewsHour)

 共和党支持の極右支援者らは、この時、涙ながらに立ち上がって父を称賛した17歳の息子をここぞとばかり「Weird」呼ばわりして逆襲を試みた。彼らには残念なことに、のちにこのウォルズ氏の息子に障害のあることが判明した。これには「父親への純粋な愛情を示しただけの、しかも未成年で障害のある少年を攻撃するとは何事か」と、両陣営の支持者から大ブーメランを喰らっている。

 米ワシントン・ポスト紙はウォルズ氏が、政治が滅多にネットに示すことのできない「純粋さ」をもたらしたと評している。信念と誠実さで人々に教え諭すような、しかし威圧的ではなくストレートな言葉が人々に「刺さる」のかもしれない。

 トランプ陣営は何とかウォルズ氏をおとしめようと、同氏の縁戚や、同氏と不仲の兄を引っ張り出してきて彼らがトランプ支持者だとアピールした。ウォルズ氏の粗探しをしてスキャンダルを暴露しようと目論んだのだ。

 しかし、肝心のその兄が弟の暗い過去として告白した内容が「子供の頃、車に乗ると誰も隣に座りたがらなかった」というもので、それはウォルズ氏が車酔いしやすい体質だったからというオチであった。

 Weirdである。