『奇譚クラブ』が戦後思想に与えた影響

河原:そして、ここからが重要なのですが、土路の小説では、この家畜化された女性たちのみが水爆の被害を免れ生き延びることができるのです。ある意味で、家畜の生を救済として描いている。この意味で、土路作品では植民地主義批判と、植民地における過酷な生の肯定が両立しているのです。

 多くの戦後の知識人たちは『奇譚クラブ』を読んでいたことを明言しませんでしたが、部数の多さや知名度から見て、相当数の人が読んでいたと思います。サブカルに理解があるような思想家は皆かなり読んでいたはずです。

 このことを踏まえると、『奇譚クラブ』における植民地や支配や暴力に対する想像力が日本の戦後思想に何らかの影響を与えていた可能性もあります。

 作家にどれほど自覚があったかは不明ですが、当時の『奇譚クラブ』掲載作には、ポルノであるにもかかわらず、このような、まさに戦後的な読みを可能にするポテンシャルがあります。 

 理想を言ってもどうにもならないやりきれなさのようなものをどこかに落とし込むときに、サディズムやマゾヒズムというものが媒介になったのかもしれません。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。