「狼少年」にならぬ伝え方、検討を

 気象庁の前述の有識者会議は地震研究者を中心とする工学系研究者で構成されている。しかし、情報が独り歩きし、偽情報などの影響も懸念され、政府の発表情報の影響が極めて広範に及ぶ時代に工学系の研究者中心に内容を精査して、気象庁事務局等と協力して社会に訴えるというとき、もう少し災害情報やリスク・コミュニケーション、政策コミュニケーションの専門家などの知見も必要ではないだろうか。なお日本は全般的にこの分野が手薄ともいえる。

 コロナを経験した日本社会は、直感的に理解しにくい確率で表現される「危機」と中長期で向き合うことがいかに難しいかということを広く経験した。あるいは現在進行系で経験している。

 発生確率が低いということは中長期の構えで向き合わなければならないということであり、個々人の行動変容が短時間で命を左右するという点ではコロナ以上に「伝え方」が重要となってくるともいえるかもしれない。政府が狼少年となってしまうようではよろしくない。

 気象情報の区分も変更され、感染症対策におけるリスク・コミュニケーション戦略の見直しも進められている。南海トラフ地震情報の現在の伝え方、情報発信がこのままで良いかどうかよく検討されるべきだ。はっきりいってわかりにくいし、意味がある対応なのかやや疑問も残る。

 だが、有事においてはこうした疑問や当局への不信頼がボトルネックとなる。現状では観光地である地域社会が大きなしわ寄せを経験し、いつしか多くの国民、特に東京をはじめ都市部の住民はそれをすっかり忘れてしまっているということになりかねない。

 しかし旅行や宿泊キャンセルを通じて、地方に負荷をかけたのは都市部住民かもしれず、あまり好ましい状況でもあるまい。政府も補償は考えていないという。

 政局に大きく揺れる政治の現状だが、国民の命を左右する問題だけに政権が変わろうとも切れ目のない、そして迅速な検討が求められる。