「特別な注意」が招いた夏休みの混乱

 南海トラフ地震は気象庁の有識者会議「地震防災対策強化地域判定会」と「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」が平時から月1回データの変動を把握しているという(気象庁「地震防災対策強化地域判定会(判定会)」)。「異常」を把握するためには「平時」を知って判断できるという発想は理解できる。

 地震大国だけあって、我々はしばしば「南海トラフ地震」の「恐ろしさ」について、その雰囲気だけは知っている。ただしそれは極めて漠然としたものである。

「初めて」のインパクトは大きい。「政府としての特別な注意の呼びかけ」としての「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の字面とその内容のギャップは多くの人々を困惑させた。

 少し長くなるが文面を引用しておこう。

 過去の世界の大規模地震の統計データでは、1904年から2014年に発生したモーメントマグニチュード7.0以上の地震1,437事例のうち、その後同じ領域でモーメントマグニチュード8クラス以上の地震が発生した事例は、最初の地震の発生から7日以内に6事例であり、その後の発生頻度は時間とともに減少します。このデータには、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(モーメントマグニチュード9.0)が発生した2日前に、モーメントマグニチュード7クラスの地震が発生していた事例が含まれます。世界の事例ではモーメントマグニチュード7.0以上の地震発生後に同じ領域で、モーメントマグニチュード8クラス以上の地震が7日以内に発生する頻度は数百回に1回程度となります。
 これらのことから、南海トラフ地震の想定震源域では、大規模地震の発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっていると考えられます。
 南海トラフ地震には多様性があり、大規模地震が発生した場合の震源域は、今回の地震の周辺だけにとどまる場合もあれば、南海トラフ全域に及ぶ場合も考えられます
 最大規模の地震が発生した場合、関東地方から九州地方にかけての広い範囲で強い揺れが、また、関東地方から沖縄地方にかけての太平洋沿岸で高い津波が想定されています。
(気象庁「南海トラフ地震に関連する情報」より引用。下線強調は引用者による)

 いわゆる夏休みのバケーション期間と重なったことも混乱に拍車をかけた。

 例えば日本の大動脈である東海道新幹線は、8日午後から三島―三河安城駅間で速度を時速230キロに落として運転した。そのため10分程度の遅れが生じたという。全国のJR各社や私鉄も特急や在来線を数多く運休や徐行運転にした。

 夏休みの書き入れ時に海水浴場が閉鎖され、花火大会が中止され、人々の不安から観光地では宿泊予約のキャンセルが相次いだという報道もなされている。

宮崎市の青島海岸に設置された遊泳禁止の看板=2024年8月10日(写真:共同通信社)宮崎市の青島海岸に設置された遊泳禁止の看板=2024年8月10日(写真:共同通信社)
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 南海トラフ地震は災害対策基本法と南海トラフ地震特措法の2つの法律を基軸としているが、都道府県や鉄道事業者などのインフラ事業者に事前計画の策定を定めているので、政府の臨時情報発表に応じて、それぞれの主体が計画に基づいて行動したことに起因している。

 政府はこうした動きを受けて情報の伝え方を見直す可能性に言及している。

内閣府 南海トラフ地震臨時情報めぐり “伝え方の改善を検討” | NHK