「福祉に興味なんてない」というおじさんの再就職

 もう一人、「衰退産業」からリスキリングによって転職を試みた中高年男性に出会った。

 印刷会社で働いていた都内在住のBさん(43)が勤務先を退職したのは、やはり3年ほど前である。

「大学卒業以来、2つの印刷会社で働きました。給料は下がる一方、ボーナスもなく、業界の未来も暗い。しかも職場環境が最悪で」

 Bさんの印刷会社は、従業員が10名ほどの零細企業。社長はワンマンでパワハラ気質、残業や休日出勤は多いが手当は出ないというブラックさである。

 Bさんも思い切って業種を変えることにした。

「勉強して介護福祉士の資格を取りました。失業給付を受けながら、無料で勉強ができます。福祉に興味なんてないですよ。でも求人は多いですし、景気に左右されない仕事といえば、今の自分にできるのはこれしかないと」

 Bさんが利用したのは公共職業訓練(ハロートレーニング)。ハローワークを通じて2年間、介護系の専門学校に通った。クラスメイトの半分は20代の外国人、残り半分が40~50代の転職組で、7:3で男性が多かったという。

ハローワークで就職相談の順番を待つ求職者(写真:共同通信社)ハローワークで就職相談の順番を待つ求職者(写真:共同通信社)

 介護福祉士の資格を取れば、高齢者や障害者の施設で専門職として働くことができる。

 Bさんは再就職先も慎重に探した。選んだのは障害者が日中に通所する作業所だ。

「実習で高齢者の介護施設の仕事も体験したのですが、体力勝負の職場でした。夜勤もあるし、腰を悪くして辞める人も多いと聞いて、自分には難しそうだなと」

 Bさんが就職したのは障害のある人が日中働く「就労継続支援B型」という施設。Bさんは、知的障害のある人が行うチラシの袋詰めなどの軽作業をサポートする。

 年収は印刷会社の頃とあまり変わらず400万円程度。しかし職場環境には満足している。

「勤務時間が規則正しく、休みもしっかり取れる点がいい。昇給もあると聞いています。障害を持つ人に特別な思い入れはありません。仕事と割り切っています。仕事ってそういうものだと思っていますから」

 転職して半年。Bさんのリスキリングは、今のところ成功しているようである。