「IT系の仕事」は警備員だった

 Aさんはネットで探した「初心者でもOK」「Webプログラマーへの転職を目指す」というIT系のオンラインスクールに入会していた。費用は総額70万円。

「70万円は高いと思いましたが、独学だと3日坊主になるので、カミさんを説得して月3万円のローンを組みました」

 プログラミング言語どころか、仕事ではパソコンを使う機会がほぼなかったというAさん。オンライン授業で慣れないIT用語に苦戦しながらも、ホームページ作成などのスキルを1年半かけて勉強したという。だから、Aさんは社長からリストラの相談を受けた時、ためらいなく退職の道を選んだ。

 ところが、いざIT系に転職しようとしても、50歳近いAさんを雇ってくれる会社はなかった。

「IT業界ってツテが必要みたいです。そういうコネが自分には全然ない。 ITエンジニアの派遣会社に登録することも考えましたが、経験者じゃないとダメなところばかりで」

 そんな時、Aさんは次のような募集を見つけた。

「IT系のお仕事が未経験という方でも、働きながら実績を積んでいただけます」

 Aさんはその求人に飛びつく。……が、その会社から与えられた仕事は、ビルの警備だった。「オフィスビルの夜間警備員の仕事をしながら勉強してください」と言われたのだという。

「なんだかおかしいなと思いましたが、お金を稼がないといけないので、結局、その仕事を1年くらい続けました」

「使えない」と判断されたのか、そもそもハナから「IT系の仕事」は「釣り」に過ぎなかったのか。仕事を求める中高年に餌を撒くような「ダミー求人」には、注意しなければならない。

 その後もAさんは転職活動をしたが、フリーランスどころかフリーターのような仕事を転々とすることになってしまった。

「やってみて気がついたのですが、IT系の仕事は50歳近い人間が一からやっていけるような世界ではないのかなと思いました」

 結局、Aさんはもとの封筒の会社に頼み込み、再雇用してもらった。幸運にも「出戻り」のAさんを会社はすんなり受け入れてくれたという。

「ちょうど人が辞めて、外国人を雇おうか考えていたタイミングだったそうです。一から新しい人を雇うより経験者のほうがいいという判断で」

 それでも給料は相変わらず20万円程度だ。

「会社はいつ潰れてもおかしくない状況です。でも、泣いてもわめいても、もう会社にしがみつく以外にないですよね」