コスタリカの大統領を務め、中米和平合意の功績で1987年にノーベル平和賞を受賞したアリアス氏(写真:AP/アフロ)

8月15日に79回目の「終戦の日」を迎えた。ウクライナや中東におけるニュースで目にするように世界では戦争や紛争が続くが、「軍隊」を捨て、教育や福祉に予算をつぎ込むのが中南米・コスタリカだ。「世界幸福度指数」が上位の同国に学べることはあるのか。憲法や政治の仕組み、環境への取り組みなどを紹介する。

(長竹 孝夫:ジャーナリスト)

1949年制定した憲法に「軍隊廃止」明記

 ニカラグアとパナマに挟まれたコスタリカは人口約520万人、面積は日本の九州と四国を合わせたのと同程度の約5万1100平方km。赤道より少し北側に位置し、熱帯地方である。

 首都・サンホセは標高約1000mと高く、比較的過ごしやすい。1948年、内戦で勝利したフイゲーレスの国民解放軍が軍隊廃止を宣言、銀行を国有化した。翌年に現行憲法を宣言し軍隊廃止を明記、第二共和政を開始した。

 東京新聞(中日新聞社)の記者だった筆者が、この国の首脳から「国のありよう」を生で聞いたのは1992年6月。ブラジル・リオデジャネイロで開かれた「国連環境開発会議」(地球サミット)の取材だった。172カ国のトップが集まり、各国のNGO代表らも参加。政府関係者や市民を含めると、総勢約3万人という国連史上最大の会議だった。

 日本からも多くのメディアが現地に入った。新聞、テレビ、通信社などは社会、政治、経済、科学、外報など各部の記者だけで総勢300人を超えた。会議が始まると、各社の記者たちはリオのホテルから専用バスで郊外の会場に移動した。現地の治安は極端に悪く、正面玄関には複数の軍人が自動小銃の銃口を前方に向けて警戒、緊張が漂っていた。

「大砲一本持たない」と地球サミットで名演説

 会議は、21世紀の地球を守るための行動計画「アジェンダ21」の文面作成段階で南と北の具体的な利害が「国益」をかけてぶつかり合い、調整は連日のように深夜に及んだ。

 資金問題では、政府開発援助(ODA)の国民総生産(GNP)比0.7%の目標(現行・0.35%)達成時期をめぐって対立した。結局、達成時期を明記しないまま終わった。産油国のサウジアラビアは、温暖化防止条約にとうとう署名しなかった。

 会期中に印象的な演説があった。1987年にノーベル平和賞を受賞したアリアス前コスタリカ大統領(当時)が賢人会議特別会合でその演説を終えた時、会場から大きな拍手が沸き上がり、しばし鳴りやまなかった。

「コスタリカは1949年に非武装、軍備廃棄を行い、今は大砲一本持っていない。軍事費はすべて教育と福祉につぎ込んだ。私は人間を信頼し、未来を信じている」