お盆が過ぎ、子どもたちの夏休みもあっというまに後半戦だ。夏の終わりに宿題に焦るというのは、いまも昔も変わらぬ「あるある」だろう。子どもたちの学習に、親はどう向き合うべきなのか。「子どもをご褒美で釣るのはOK?」「宿題してお小遣いを与えるのはアリ?」そんな悩みは実際のところどうなのか。教育の費用対効果をデータに基づいて分析する教育経済学の専門家、中室牧子氏(慶應義塾大学総合政策学部・教授)がわかりやすく解説する。
(*)本稿は『学力の経済学』(中室牧子著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・再編集したものです。
<前編>夏休みの宿題を休みの終わり際にやった人の傾向…なぜ、喫煙、ギャンブル、酒、借金、肥満の確率が高くなるのか?
<中編>「ご褒美で釣る」が子どもの勉強意欲を高める納得の理由…どんなご褒美だと効果が高い?米国で行われた興味深い実験
「お金」はよいご褒美なのか
問題となるのは、ご褒美として「お金」はふさわしいのか、ということです。
『ヤバい経済学』の著者でもあるシカゴ大のレヴィット教授らが行った別の実験では、ご褒美として、お金のかわりにトロフィーが用いられました※1。トロフィーといってもたいしたものではなく、約400円という安物でした。しかし、小学生に対しては400円のお金よりも、同額のトロフィーのほうが大きな効果があったことがわかっています。
※1 レヴィット教授らの研究は、Levitt, S. D., List, J. A., Neckermann, S., & Sadoff, S. (2011). The impact of shortterm incentives on student performance. Unpublished mimeo, University of Chicago.
この実験からもわかるように、子どもが小さいうちは、トロフィーのように、子どものやる気を刺激するような、お金以外のご褒美を与えるのがよいでしょう。一方、同じ実験の中で、中高生以上にはやはりトロフィーよりもお金が効果的だったこともわかっています。
「ご褒美としてお金を与えてよいものか」と逡巡されるご両親もおられると思います。
しかし、私は金額や与え方を間違わなければ、お金はそんなに悪いご褒美ではないと思っています※2。
※2 外的インセンティブに対する1つの疑問は、「インセンティブがなくなってしまった後、どうなったのか」ということである。結論からいうと、インセンティブがなくなると、学力を上昇させる因果効果は消滅してしまったことが示された。ただ、このことを過度に悲観する必要はない。幼少期の学力上昇は、大人になった後再び現れることを明らかにしている研究もあるうえ、インセンティブは持続的に学力を上昇させる効果はなかったものの、進学する子どもたちを増加させたことを明らかにしている研究もある。
私がそう考える根拠は、フライヤー教授が事後的に行ったアンケート調査の中にあります。