- 7月18日午前、ドル/円相場は155円前半まで急落した。その背景には、トランプ氏の円安是正発言や利上げに言及した河野太郎デジタル相の発言が挙げられている。
- その中でも、河野デジタル相が言及した利上げ要求はどこまでリアリティがあるのだろうか。
- 7月末に実施される日銀の金融政策決定会合を前に、7月会合の注目点を整理する。
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
投機筋の口実に使われた要人発言
7月18日東京時間午前、ドル/円相場は一時155円台前半まで下落した。前週には161円台にあったことを踏まえれば、急落と言って差し支えないだろう。
背景には諸説ある。
7月16日に配信されたブルームバーグのインタビューでトランプ氏が円安や人民元安の是正を訴えたことに加え、17日には河野太郎デジタル相がブルームバーグテレビジョンにおけるインタビューで円安抑制のために日銀に利上げを求めるような発言をしたことも円高材料になったという指摘が出ている。
実際、河野氏のインタビューは英語で実施され、円高に振れたのも17日の日本時間夕方、すなわち欧州勢が参入する時間以降だった。そう考えると、確かに河野発言が材料視された可能性は否めない。
トランプ氏の発言については過去の本コラム「米大統領選後の為替相場、トランプ氏が勝利した場合のメインシナリオ」でも論じたように、そもそも同氏は通貨・金融政策について定見がない。
いくら製造業大国復活を唱え、ドル安を志向しても、これに合わせて「大統領選挙の前に利下げをするべきではない」と利下げをけん制するなど、相変わらず支離滅裂だ。こうした構図は前政権時代から常に見られてきたものだ。
上記コラムでも論じたように、トランプ氏の政策パッケージはあくまでインフレ誘発的であり、派手な発言だけに引っ張られるのは危険である。
現状はトランプ氏勝利が既定路線となる中、「製造業大国復活」という分かりやすいニュースのヘッドラインが円ショートを巻き戻す口実として使われたと見るべきだろう。
あくまで実際に執行される経済政策がどのような内容で、それに経済・物価情勢がいかように反応し、FRB(米連邦準備理事会)が動き得るのかという順番で思考を進めなければならない。この点、トランプ氏の政策を一方的な円高相場のトリガーとして確信するのは難しい。
片や、日銀の政策運営をどう読んでおくべきか。
河野氏が求める日銀の利上げは7月末に開催される政策決定会合におけるコンセンサスではないものの、予想する向きもそれなりに多く、ヒステリックな反応を示すほどの材料とは言えないはずである。
そう考えると、同じく投機の巻き戻しの口実に使われただけではないだろうか。にわかに注目度も高まってきているため、7月30~31日の日銀金融政策決定会合について簡単にプレビューしておこう。