トランプ政権を前提とすればドル高

 しかし、繰り返しになるが、大前提となるFRBの利下げにとってトランプ氏の経済政策運営が最大の障害となりそうなことが一番問題なのである。

 減税や拡張財政、移民制限などを繰り出す限り、米国の雇用・賃金情勢は逼迫するしかない。かかる状況下、FRBの利下げが難しくなり「トランプ政権を前提とすればドル高」と考えておくことがメインシナリオで問題ないだろう。

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 ちなみに、トランプ氏が当選したからと言って急に関税が上がったり、移民が追い出されたりするわけではない以上、雇用・賃金情勢の逼迫はすぐには到来しないという指摘もある。

 確かにその通りだが、金融市場は予見可能で最も極端なシナリオを積極的に織り込もうとする。トランプ当選後の米金利が下がりにくく、それがドル相場を支えてしまうというシナリオは既に起きている。

 市場は事実の真偽は気にせず、今懸念される展開を織り込むものだ。「中期為替相場見通し」でも議論したように、第二次トランプ政権がテーマ化する10~12月期以降の円安再起動は引き続きメインシナリオとして想定すべき展開と言える。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年7月2日時点の分析です。

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唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。