日米金利差の縮小を待つだけではダメなわけ

──構造問題とは別に、日米金利差が重要なのでは?という声に対して、投機の円売りと実需の円売り、という観点でのわかりやすい解説も展開されています。

唐鎌:日米金利差の拡大・縮小に沿って投機取引が動き、それがドル円相場の方向を動かしてきたのは事実です。それは否定していません。

 わかりやすく説明するとこうです。恒常的に貿易黒字を出していた時代には、実需は常に円買いに傾いており、円高が悩みの種だったので、日銀は緩和政策を続けがちでした。そうした中で、FRBが2005~07年のように引き締めを行うと投機は円売りに動き、これである程度は円安になります。

 しかし、リーマンショック後にFRBが緩和に転じると投機の円売りは投機の円買いに転じました。この時、貿易黒字がある以上、実需の円買いは健在です。結局、投機も実需も円買いに傾いた結果、激しい円高になりました。

 ところが、2012年以降、日本が貿易赤字になると、実需は常に円売りという前提に変わりました。2022~23年のように、FRBが引き締めに動くと投機の円売りも重なるので、投機も実需も円売りとなって急激な円安に至りました。

 特にこの2年間はFRBが史上最速ペースの引き締め、日本では史上最大の貿易赤字が重なっていたわけですから、あれほどの円安が起きたのは必然と思います。

 2024年以降にFRBが緩和に動けば、投機は円高に動くと思われますが、実需の円売りは続くので、かつてほどの円高にはなりようがないと思っています。金利差縮小で円高への動きはあるでしょうが、恐らく迫力は欠くでしょう。

資産防衛でキャピタルフライトが続く恐れ

──さらに、構造面に話を戻すと、海外証券投資の世界では個人投資家の参加で、いっそう円安を促進する動きが広がっていますね。

唐鎌:前著でも本当に恐れるべきは「家計の円売り」だと指摘してきました。「貯蓄から投資へ」「国際分散投資」といったことは一般論では正しく、異を唱えません。ですが、日本人の外貨への投資や海外証券への投資が活発化しており、家計の円売りが拡大しているのが実情です。

 政府は資産運用立国を目指し、新NISAを導入しました。資産運用立国というと聞こえは良いのですが、今、家計が行っているのは投資というよりも防衛だと思います。円安を起点とするインフレ圧力を緩和するために外貨建て資産を求める人が増えているということです。

 実際、この3年間、円の現預金をそのまま抱えていた人と外貨建て資産に投資をしていた人では歴然と差が付いたはずです。これほどまで通貨価値の劣化を感じたことは変動為替相場制移行後の日本ではなかったはずです。

「骨太の方針」などを見るかぎり、「家計や企業が貯蓄ばかりして投資に回さないから、経済が成長しない」という政府の問題意識が透けています。しかし、これは原因と結果を取り違えていると思います。日本の期待成長率が低いからこそ、デフレで通貨価値が増すからこそ、多くの国民は現預金を積み上げていた側面があります。案外、日本国民は合理的に行動しているとも言えます。

 今はインフレ、円安なので、家計は株式を買い、「弱い円」ではなく、「強い外貨」を持つという動きが広がっています。そうすると、日本人が銀行を通じて国債を保有しているという構造も崩れます。日本人が買わないなら誰が国債を買うのか。海外の投資家に国債を買ってもらうには金利を上げなければなりません。この議論も重要になってきます。