ヒズボラとイスラエルの全面戦争にイランも引きずり込まれる

 イスラエル軍がレバノン国境に部隊を集結させる動きを見せる一方、ヒズボラは「イスラエルの軍や民間施設を標的にしている」ことを示唆する動画を公開している。

ヒズボラの攻撃を受けたイスラエル北部(写真:AP/アフロ)

 この事態を最も憂慮しているのはEUだろう。

 欧州連合(EU)加盟国であるキプロスがイスラエル軍の訓練に空港を提供していることを理由に、ヒズボラは「(戦争が開始されれば)キプロスも攻撃する」と警告を発しており、EUにとっても「対岸の火事」ではなくなりつつある。

 米国も「中東地域にひどい結果をもたらす地域戦争になる」として戦争回避に躍起になっている。イスラエル軍の攻撃でヒズボラの存在が危ぶまれる状況になれば、中東各地で活動している親イラン武装組織が、場合によってはイランまでもが、イスラエルとの戦闘に参加する可能性が排除できなくなるからだ。

 今年4月にイスラエルとイランが一時、交戦状態に入ると、原油価格は1バレル=90ドル超えとなった。このことからわかるのは「イランが紛争に巻き込まれる」と市場が判断すれば、実際の原油供給に支障が出ていなくても原油価格が急騰するということだ。

 中東情勢の今後の推移は定かではないが、地政学リスクで原油価格が上昇しやすい環境になりつつあるのではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。