テレビ演説をするヒズボラの指導者(写真:ロイター/アフロ)
  • 大統領選が間近に迫るイラン情勢に対する警戒が原油市場で高まっている。
  • ヒズボラとイスラエルが全面戦争に突入すればイランも巻き添えとなる可能性があり、原油供給のみならず中東全域のさらなる不安定化に懸念が強まっている。
  • 米国ではドライブシーズンに入ってもガソリン需要が拡大しておらず、足元では原油価格の上昇は抑制されている。だが、イラン情勢次第では急騰する可能性もある。(JBpress)

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)はこのところ、1バレル=80〜82ドルの間で推移している。

 中東地域を中心とする地政学リスクの高まりで「買い」が入る一方、原油需要に関する悪材料が相場を押し下げる展開となっている。

 まず、世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。

 世界最大の原油需要国である米国の状況が芳しくない。

 ドライブシーズンに入ったのにもかかわらず、足元の原油・ガソリン在庫とも増加している。米エネルギー省が6月26日に発表した統計によれば、直近のガソリン在庫は前週比265万バレル増と今年1月以来の大幅な伸びとなっており、その水準も今年3月以来の高さとなっている。

 市場では「夏場に原油需要は拡大する」の見方が一般的だったが、これまでのところ期待外れに終わりそうな状況だ。「長引く物価高が多くの米国人の家計を圧迫しており、遠出のドライブ旅行を手控える傾向が強いからだ」との指摘が出ている。

 主要国の中で唯一気を吐いているのは、世界第3位の原油需要国となったインドだ。

 5月の原油輸入量前月比5.6%増の日量510万バレルだった。内訳を見てみると、ロシア産が前月比14.7%増の日量210万バレルと過去最高となっている。

 供給面では、米国の足元の原油生産量は日量1320万バレルと過去最高に近い水準で推移している。石油掘削装置(リグ)の稼働数は減少し続けているが、英金融大手HSBCは6月20日、「米国のシェールオイルは今後3~4年間成長を続ける」との楽観的な予測を示している。「1つの井戸当たりの生産性が向上しており、しばらくの間は増産できる」というのがその根拠だ。

 西側諸国から経済制裁を受けているロシアの原油生産も安定している。5月の生産量は日量922万バレルと前月(同930万バレル)から微減にとどまっている。

 だが、今後もこの状況が続く保証はないかもしれない。