生成AIがオフィスの潤滑油になる日

 前述のハーバード大学の調査結果が示しているように、多様性の高いチームはビジネス上のパフォーマンスでも優れていることが確認されているが、その理由についてはよく分かっていない。

 単にチーム内で交わされるさまざまな意見や、コミュニケーションのスタイルが多様になるだけで、(均一性の高いチームでは気付けないような情報まで拾えるようになるなどして)パフォーマンス改善につながるのであれば、チームに参加するのがAIであっても構わないだろう。

 また、これまで女性を含むマイノリティの人々は、さまざまな恐れや不安、あるいはマジョリティの人々の中で一般的なコミュニケーション・スタイルへの抵抗感などから、仕事において積極的に参加することができなかった。

 そうした心理的不安や抵抗が生成AIによって取り除かれ、本来の能力を発揮できるようになれば、それが「マジョリティの男性でなければ仕事はできない」という偏見も改善していく可能性がある。

 であれば、たとえ生成AIによる支援がマイノリティの人々の背中を押す程度の効果であったとしても、中長期的に職場内でのマイノリティに対する評価を変えていくことも期待できる。

 人間のように会話できるAIが誰でも使える時代が到来してから、まだ数年しか経っていない。これから今回の論文のように、人間とAIによる混成チームがどのようなダイナミクスで動き、それがどうパフォーマンスに影響するかという研究が数多く行われるようになるだろう。

 その中から生まれてくるベストプラクティスが普及し、生成AIを使ったチャットボットやロボットが、チームメンバー間の潤滑油として機能するようになるかもしれない。

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(ほか多数)

【小林 啓倫】
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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