- テクノロジーなどに関して、若手社員がシニア社員のメンターとなるリバースメンタリングは一般的になっている。
- このリバースエンジニアリングを生成AIの領域でも活用しようと考える企業は増えているが、それを否定するような論文も登場している。
- なぜ生成AI領域でのリバースメンタリングは危険なのだろうか。
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
注目されるリバースメンタリング
「リバースメンタリング(reverse mentoring)」という言葉を耳にされたことがあるだろうか。人事系の仕事を担当されている方なら、一度はこの手法について触れたことがあるかもしれない。リバースメンタリングという名前で呼ばれていなかったとしても、同じ概念をこれまでも実践してきたという企業もあるだろう。
日本語で「逆メンタリング」と訳される場合があることからも分かるように、これは通常のメンタリングとは逆の方向で行われる教育プログラムだ。
通常のメンタリングでは、シニア社員が指導者(メンター)、若手社員が指導を受ける側(メンティー)となり、メンターが持つ過去の経験やスキルを伝授される。一方、リバースメンタリングでは、若手社員がシニア社員のメンターとなり、彼らが得意とする領域や知識について伝えるのである。
その「若手社員が得意とする領域や知識」というのは、必然的に新しい技術や概念、文化などに関するものとなる。
たとえば、リバースメンタリングを1999年に初めて導入したと言われるGE(ゼネラル・エレクトリック)では、若手社員が管理職や経営陣に教えたのは、インターネットに関する知識だったそうだ。
同じように、マイクロソフトが実施しているプログラムでは、若手社員がソーシャルメディアやデジタルマーケティングに関する知識を伝えている。
また、米国の大手銀行バンク・オブ・アメリカでは、LGBT+に関するリバースメンタリング・プログラムを実施している。
最近の急速なテクノロジーの進化、さらにそれが原因の一つとなって引き起こされている社会変革の波は、シニア社員が持つ知識を陳腐化させてしまう。それを補うための有力な手段として、リバースメンタリングが注目されているのだ。
ここで「ならばあの技術も」と感じた方が多いだろう。
そう、2022年末のChatGPT登場から始まった生成AIブームによって、経営陣もAIに関する知識をアップデートする必要が生まれている。そこで、既に生成AIを使いこなしている若手社員を見つけ、彼らにその知識を共有してもらおうとする企業が出てきている。
リバースメンタリングという仰々しい名前でなくても、若手主催の自主的な勉強会に、シニア社員が同席するというケースは皆さんの会社でも見られるのではないだろうか。
著名なコンサルティング企業を見ても、まだ彼ら自身の社内での取り組みを通じて、生成AIに関する専門知識やベストプラクティスを急いで構築している状況だ。ならば、登場して数年しか経っていない生成AIの知識を学ぶ相手として、自社内の若手社員ほど手っ取り早く、ふさわしい存在は他にないと感じるかもしれない。
ただ、事態はそう簡単ではないことが、最近の研究から明らかになっている。