劇的復活はサービス改良のたまもの

 また鉄道の運営にあたっての組織構造も一新した。

 従来型であれば、線路の保有と維持管理や運行管理といった「下」のインフラに関連する業務と、列車の運行といった「上」の業務は一体で同じ会社が行うのがあたりまえであった。現在の日本の鉄道の運営もこの方式が基本である。

 これを大幅に改め、図のように整理した。まず自治県政府が線路などインフラの保有者となる。これは1999年の譲渡の時から変わらない。さらに改良のためや車両の購入の資金の拠出や、運営や維持管理のための資金も拠出する。また骨格となるダイヤも策定し、後述する民間の鉄道運行事業者に運行業務を「発注」する。

県とフィンシュガウ鉄道に関連する企業の関係(STA社資料を基に筆者作成)県とフィンシュガウ鉄道に関連する企業の関係(STA社資料を基に筆者作成)
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 自治県の傘下には実働部隊となるSTA社(南チロル交通構造公社)が置かれるが、これは専門業務を行うために県が100%出資して設立した特殊会社である。ここが投資の管理を行うとともに、車両を保有して鉄道運行事業者にリースする。さらにその傘下にはSBA社が子会社としてあるが、ここがインフラ関連の日常業務、具体的には上で述べたCTC設備による列車運行管理と日常のインフラの維持管理業務、それに修繕業務への対応を担う。

 インフラの保有者である県はSBA社にインフラの独占的使用権を付与している。そして鉄道業務の運行を担うのが、先述のSAD社である。一時は10%程度県が出資していた時代もあったが、現在は地元の実業家が100%の株式を保有する民間会社である。

 この組織構造を構築することによって、インフラという負担の重い部分は公的主体が保有・管理をし、民間事業となるのは鉄道の運行そのものだけである。その運行事業も県から発注されており、公共側が管理している。この発注にあたって使われるのは初回に触れた「公共サービス契約」である。

 ここまでずいぶんと長くなってしまったが、鉄道の商品そのものであるダイヤ、運賃やバスとの接続、鉄道のサービスに乗客が触れる重要ポイントである駅、さらには事業構造まで、改良ポイントを「総動員」して鉄道サービスを徹底的に「再構築」して、フィンシュガウ全体の公共交通体系を「リ・デザイン」したのである。輸送密度推定90の鉄道路線が2500まで増えたのはこの成果であることは論をまたないであろう。