地元バス会社が鉄道の運行会社に

 またバスとの調整を行うと、バス会社との関係が問題になりそうである。単に路線をメランに直行させず駅に接続するだけではバス会社の収益源を奪うことになり、バス会社の同意を得ることは難しかったであろう。

◎バス路線とのすみ分け調整については前編で詳しく紹介しています。

 幸いなことに、フィンシュガウのバス路線を運行していたのは、南チロルの地元のバス会社SAD社であった。そこで県は政策的にこのバス会社が新たに鉄道会社としての免許を取ることを後押しして、再開した鉄道路線の運行会社としたのだ。これなら鉄道とバスの調整もしやすい。

 また新たに鉄道事業に参入することになるSAD社にとっては、欧州で進んだ鉄道の上下分離で運行だけ担う事業者の新規参入が可能となりつつあった時期であり、ビジネス拡大のチャンスでもあった。

ホーム、電光掲示板、パーク&ライド…大改良に続く大改良

 ここまででもかなりのテコ入れである。まさに思いつく基本的なことを「総動員」し、「リ・デザイン」したといった様相だが、改良したポイントはほかにもたくさんある。

 一つは鉄道の安全運行に欠かせない信号設備と列車運行管理システムを最新のものに入れ替えたことである。日本でいう列車集中制御システムCTCの導入であり、起点となるメラン駅にCTCセンターを設置した。この初期投資によって、運行管理コストを低減しつつ、運行の安全性を高めた。また線路の基盤となる路盤や橋も、再開にあたって改良している。

 駅のホームも大改良した。上述の通り車両は低床の新型車を導入したが、ホームも欧州標準の高さにかさ上げして、ホームと車内に段差が生じないようにした。

 さらにホーム上の待合エリアには雨風をしのげる上屋を必ず設置。木目調のデザインで路線全体の統一感を持たせている。

 また時刻表や周辺の情報を一元的に掲示する場所も設けて、さらに電光掲示板によるリアルタイムの発車案内も各駅に設置した。

 さらに駅の照明にも気を配った。従来の照明は高所からなるべく少ない電灯で照らすことを主な目的としていたのを、照明の高さを建物の天井程度の高さまで下げて、夜でも足元がしっかり照らされる照度を確保しつつ、駅周辺への「光害」を抑制している。

 駐輪場には必ず屋根を設置したほか、多くの駅ではパークアンドライドの駐車場を設置している。