文・写真=山﨑友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)
久大本線開通の功労者が列車名に
由布院といえば九州屈指の温泉地であり、今や世界的にも有名な観光地。豊後富士とも呼ばれ、なだらかで優しいシルエットの由布岳を筆頭に、湖や美術館、博物館など見どころが満載の街は常に国内外の人々であふれ、活気に満ちている。
そこへこの春、由布院への観光客もターゲットにした新しい観光列車が誕生した。博多から別府までを結ぶ「かんぱち・いちろく」である。不思議な名前のこの特急はどのような列車なのか、さっそく紐解いてみよう。
まずはそのネーミングから。「かんぱち・いちろく」とは二人の人物の名前からつけられた。「かんぱち」は大分県九重町に江戸時代から続く八鹿酒造(旧舟来屋)の三代目である麻生勘八氏。地元は山々に囲まれて交通が不便だったため、1905年から九州横断鉄道の敷設運動に乗りだし、国会での法案可決に長年尽力した。
いっぽうの「いちろく」は衛藤一六氏。大分県農工銀行の頭取を努めた人物で、所有していた土地を国鉄に無償で譲渡し、鉄道を由布院に通すように働きかけた。その結果、鉄道は当初日田からまっすぐ大分につなげる計画だったが、迂回して由布院盆地を大きく曲がることとなる。このカーブを地元では「一六線」や「一六曲がり」とも呼んでいる。つまり現在の久大本線に多大な貢献をした人物名が列車名となっているのである。
車両はといえば、特筆すべきは今までJR九州の列車のデザインを数多く手がけてきた水戸岡鋭治氏がデザインしているのではなく、株式会社IFOOが担当していることだ。同社は木材を活かしたデザインを得意としており、JR九州と連携してローカル線の駅を活用したまちづくり事業にも取り組んでいる。日豊本線の霧島神宮駅をリノベーションするなどの実績を持っている。
その外観は驚くことに、ひとことでいうと真っ黒だ。見た目にもインパクトと重厚感があり、車体に沿線の景色が映り込むように艶のある黒が使用されている。そこに久大本線の路線図がゴールドのラインで描かれており、鮮やかなアクセントとなっている。