乱発された不正卒業証書

 かつてSNSもなく、政府に不利な記事は一切書けないメディアしかなかった近年まで、表ざたになることはなかったが、カイロ大学などエジプトの国立大学では、長年にわたって教授や職員が関与し、“不正卒業証書”の発行が行われてきたと根強く言われている。英語では「complementary certificate」と呼ばれ、直訳は「プレゼントの証書」だが、実態は“不正卒業証書”である。

 この事実について筆者は、2016年から2019年にかけ、数回の現地取材を行い、数多くのエジプト人から証言を得た。と言うより、否定するエジプト人は1人もいなかった。

 証言の例を挙げると、次の通りである。

 カイロ大学とアイン・シャムス大学(カイロにある別の国立大学)の職員は、サダト政権(1970~81年)・ムバラク政権(1981~2011年)下において、大学で勉強したこともない多数の国内外の政治家、有力者、その関係者に学士の“不正卒業証書”が与えられたと述べる。小池氏が卒業したとしている1976年はまさにサダト時代である。

 エジプト最大の国営日刊紙「アル・アハラーム」や「アルジャジーラ」などで20年以上にわたって記者を務めたベテランのエジプト人ジャーナリストは「エジプトの有力政治家が『この人物を卒業生にしろ』と命じれば、学長は職員に命じて卒業証明書や卒業証書を作らせる。筆者が「それは政治家のプレッシャーに屈してそうするということか?」と訊くと、苦笑して「プレッシャーは必要ない。エジプトでは当たり前のこと。事務的に処理されるだけ」と答えた。