刑務所にいて大統領に当選したらどうなる? 

 このうちの1つが、2021年1月の連邦議会議事堂占拠に関する裁判です。支持者を扇動して議事堂を占拠させ、前年の大統領選の結果を覆そうとした罪に問われていますが、トランプ氏側は、「在任中の大統領の行動は刑事責任を問われない」と主張しています。連邦最高裁が7月にこの訴えを認めるかどうかを判断する予定です。

 その他の2件は大統領退任時に機密文書を持ち出した罪と、ジョージア州の大統領選集計作業に介入しようとした罪に関する裁判です。この2件は今秋の大統領選までに判決が出る見通しは立っていません。

 しかし、いくつもの刑事裁判で被告人となったまま大統領選を戦うことは、トランプ氏にとって軽い負担ではありません。世論調査でも現在バイデン氏との差はわずかで、わずかな出来事が選挙の結果を左右しかねない状況です。

 米国では「もしトランプ氏が刑務所にいて当選したら」という予測まで広がっています。

 大統領には恩赦権限があるので、自分で自分を恩赦・減刑して刑務所から出るのではと見る向きもありますが、ニューヨーク州とジョージア州の裁判には大統領の恩赦権限は及ばず、予断を許しません。

 また、大統領権限を駆使して司法関係者を自らの側近で固め、自らの裁判を有利に運んだり、民主党関係者を次々と訴追したりして仕返しをするのではないかという憶測もあります。いずれにしろ前代未聞の大統領選になることは間違いないようです。

西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。

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