有罪評決を受けて会見するトランプ氏(写真:AP/アフロ)

米国のトランプ前大統領が2024年5月末、刑事事件で有罪の評決を受けました。2016年に行われた大統領選で不利にならないよう不倫の口止め料を支払ったにもかかわらず、それを隠すために会計書類などの業務記録を改ざんした罪によるもので、大統領経験者が刑事事件で有罪となるのは米国史上初めてです。今年秋の大統領選では、現職のバイデン大統領との一騎打ちが予想されるトランプ氏。なぜ、このような事態が起きているのでしょうか。米大統領選への影響も含め、やさしく解説します。

西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス

「トランプ有罪」で陪審員12人が一致

 米国メディアの報道などによると、トランプ氏は2006年、芸能人ゴルフ大会で知り合ったポルノ女優のストーミー・ダニエルズ氏とホテルで性的関係を持ったとされています。

 トランプ氏が大統領選に立候補した2016年、ダニエルズ氏側はこのスキャンダルを雑誌に売り込もうとします。それに対し、トランプ氏側は選挙への悪影響を恐れて押さえ込みを図り、11月の投票日直前、顧問弁護士のコーエン氏が口止め料13万ドル(約2000万円)をダニエルズ氏側に渡しました。

トランプ氏と性的関係を持ったとされるポルノ女優のストーミー・ダニエルズ氏(写真:Backgrid/アフロ)

 不倫問題はその2年後、2018年に米大手紙が報道して広く伝わることになります。検察も捜査に乗り出しました。

 コーエン氏は口止め料を払ったことを認めて有罪となり、2019年から2021年まで服役しています。しかし、この時点ではトランプ氏の関与はあいまいでした。トランプ氏はダニエルズ氏との不倫関係や、口止め料支払いへの関与を今でも否定しています。

図:フロントラインプレス作成、写真の出典:米ホワイトハウスの公式HP、およびWikipedia Commons
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 トランプ氏への捜査が進んだのは2021年でした。ニューヨーク・マンハッタン地区検察に着任したブラッグ検事らがトランプ氏の関与を粘り強く追及。2017年にトランプ氏からコーエン氏へ42万ドル(約6500万円)が小切手で何回かに分けて支払われたことも分かってきました。

 地検はニューヨーク地裁の大陪審にこの事件を訴追し、大陪審は2023年3月、34件に及ぶ第1級事業記録改ざんの罪でトランプ氏を起訴しました。

 ニューヨーク州の刑法は、税逃れを防ぐなどの目的で事業記録改ざんを禁じていますが、それだけでは軽い罪にとどまります。他方、同州の選挙に関する法律は、選挙に影響を与えるような不法行為を禁じています。刑法と選挙法の組み合わせによって、トランプ氏は重罪に問われることになったのです。

 それから1年あまり、法廷では激しい攻防が繰り広げられました。次々と証拠を積み重ねる検察に対し、トランプ氏側は「裁判長のマーチャン判事が民主党支持者だから不適格だ」と訴えるなどして抵抗しました。最終的にはこれらの訴えは退けられ、2024年5月末、陪審員12人の全員一致で導かれた評決が「トランプ氏有罪」でした。