(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年6月6日付)

デラウェア州ウェルミントンの連邦裁判所を出るハンター・バイデン夫妻(6月7日、写真:AP/アフロ)

 米国史上初めて前大統領が有罪評決を受けた4日後に、現職大統領の子供が史上初めて被告席に座った裁判が始まるというのは、この世のちょっとした冗談だ。

 ハンター・バイデンは迫害されているわけではない。インチキ司法の犠牲者でもない。

 裁判で有罪と判断されても、米国の裁判所が武器として使われたことをめぐって大騒動になることはないだろう。

 その一方で、もし無罪放免となれば、あらゆる陰謀論がせきを切ったようにあふれ出してくるはずだ。

 つい忘れがちではあるが、米国の法の支配はいまだ健在だ。

 ドナルド・トランプもハンター・バイデンも陪審による裁判にかけられており、控訴する権利を与えられている。

 非の打ち所がない司法制度は存在しない。だが、米国では、被告は有罪が立証されるまでは無罪だ。

 二大政党の一方が法の制度を党派対立の争点にするとしたら、それは政治文化が蝕まれている証拠だ。

トランプ有罪に共和党は一致団結

 これまでの流れを簡単に振り返ってみよう。

 トランプは5月末、不倫相手に支払った口止め料を選挙費用と偽るために業務記録を改ざんしたことをめぐる裁判で、34件の罪状すべてについて全会一致で有罪とされた。

 その後、裁判の担当判事のことを「悪魔」呼ばわりし、自分は見せしめ裁判の犠牲者だと語った。

 共和党の面々もほぼ全員、このセリフを繰り返した。

 突出した例外はメリーランド州の上院議員候補ラリー・ホーガンで、厚かましいとの批判を浴びることになった。

 なぜか。

 それはホーガンが米国民に「評決と訴訟手続きを尊重する」よう求めたからだ。

 この発言に対し、トランプの義理の娘で共和党全国委員会(RNC)委員長を務めるララ・トランプは「(ホーガンは)現時点で共和党の誰からも尊敬されるに値しないし、率直に言わせてもらえば、米国の誰からも尊敬されるに値しない」とかみついた。

 要するに、インチキ司法だという主張を拒む共和党員は除名処分の対象になるということだ。