(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年5月30日付)
最初に告白しておく。
英国のリシ・スナク首相が徴兵制の復活を提案するとのニュースが5月下旬の週末に漏れ伝わってきた時、筆者の頭に即座に浮かんだのは政治風刺劇の一コマだった。
輪になるように並べられたイスに保守党のお歴々が足を組んで座り、マニフェストに載せるばかげたアイデアをブレーンストーミングしている光景だ。
この想像は、この提案にはふさわしくなかった。
突飛であり詳細も不明だが、少なくともスナク氏は2つの問題に同時に取り組む計画の概要を示したからだ。
問題の一つは軍の予備役を増やす必要性であり、もう一つは若者の間に社会的な一体感と奉仕の精神を醸成したいという願望だ。
最大3万人の志願者に1年間の兵役訓練を施す一方で、それ以外の若者には月に1度のペースで週末に何らかの社会奉仕活動を義務づけるという。
提案者が不人気なら政策の人気は重要ではない
この案に対する冷笑的な反応には、もっともな面もある。
それは何も、つい1週間前に閣僚たちにけなされたばかりのアイデアだからというだけではない。
保守党系のシンクタンクからかき集めた生煮えのアイデアではなく、本気で実行に移したい政策案を公にするのであれば、選挙期間というのはまさに最悪のタイミングだ。
最終的には党派をまたぐ支持が必要になるのであれば、特にそうだ。
自党の立候補予定者――そして現職閣僚たち――も不意を突かれ、詳細が公表されない状態で演説会場に赴くとなればなおさらだ。
2017年の選挙でテリーザ・メイ首相(当時)が公表したひどいマニフェストを覚えている読者は、選挙期間中に大きな政策を発表するとうまくいかないことは実証済みだと思うかもしれない。
2019年の選挙では、労働党のジェレミー・コービン氏も有権者に向けて政策のアイデアを雨あられとばらまいた。
だが、選挙はスパゲティの調理場ではない。
うまい具合にゆであがったものは壁にくっつくだろうと考えてパスタを次々に投げつけるという試行錯誤を繰り返しても勝てない。
それよりも重要なのは、歴史が示しているように、提案者が不人気なら、大胆な新政策案が好感されるか否かはあまり問題にならないということだ。