(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年6月5日付)
筆者が悩まされている悪夢がある。
次の米国大統領が、同国はもう北大西洋条約機構(NATO)条約に基づき加盟国の防衛に駆けつける誓いを守らないと宣言する。
欧州諸国は信頼に足る代替策をまとめることができない。失地回復主義のロシアからの脅威を恐れ、数カ国が忠誠を誓う先をロシアと中国に切り替える。
そして欧州が解体する――。
これはあり得る話だろうか。違うことを祈る。しかし、悪夢の裏に現実がある。
我々は復活を遂げるナショナリズムと外国嫌い、権威主義の時代に入ろうとしている。
トランプ返り咲きが意味すること
オスカー・ワイルドなら言ったかもしれないように、「ドナルド・トランプを度大統領に選ぶことは不運と見なせるかもしれない。2度選ぶことは不注意のように見える」。
トランプの復活は西側の超大国の状態について何か非常に不穏なことを物語る。
保守派の論客である米ブルッキングス研究所のロバート・ケーガンは筆者のポッドキャスト番組で、トランプが権力の座に近づいているのは、強力な反リベラル勢力のせいだと指摘した。
そうした態度が米国の民主主義に与える影響は憂慮すべきものだ。だが、その心配は米国内に限られない。
トランプの掲げる「米国第一」は、第2次世界大戦での米国の英国支援に反対して飛行家のチャールズ・リンドバーグが使ったスローガンだ。
この反対運動がようやく終わったのは、1941年12月の日本の真珠湾攻撃を受けて米国が戦争に突入した後のことだ。
リンドバーグは孤立主義者だった。
その人物像を定義できる限りにおいて言えば、トランプは頼りにならないユニラテリスト(単独行動主義者)だ。
だが、ウクライナで続くロシアの戦争の文脈では、これは決定的な違いにはならないかもしれない。
トランプはウクライナに手を貸すだろうか。
それとも1938年に時の英宰相ネビル・チェンバレンがチェコスロバキアについて語った悪名高い言葉を借りるなら、この戦争を「我々が何も知らない人たちの間の遠く離れた国での争い」と見なすだろうか。