――戦後のウクライナの復興のためにチェコは何ができると思いますか。
ウクライナはまず生き残らなければならない。戦争がどのように終結するかは定かではない。だから、まずはウクライナが生き残るための支援に集中しましょう。復興は戦争が終わってからの話です。戦争がいつ終わるか私には分からない。私は定期的にウクライナのキーウに行って現地の状況を見ていますが、彼らが生き残るのは本当に簡単ではありません。
――ウクライナ侵攻後、ロシアに対するチェコの世論は変わりましたか。
チェコ人は一般的に、怠惰な国が好きではないと思います。私の国では、日本やスイスなど、実際にものを作っている国や、原材料をほとんど持っていないけれども非常に勤勉な国に対して、非常に高い尊敬の念を持っています。
ロシアには想像できる限りの自然資源があるのに、何も作っていない。私たちは中国を尊敬しますが、それは中国が実際にものを作っているからであり、ロシアはそうではありません。あなたのノートパソコンも、携帯電話も、どれもロシア製ではありませんよね。カバンも、服も、車も、私たちはみんな中国製のものは使いますが、誰もロシア製のものを持っていない。ロシア製のものはほとんどないということです。石油とガス、武器、トラブルを除いてね。
私は1968年に生まれました。1968年はチェコにロシアがやってきた年です(※編集部註:チェコスロヴァキアにおける自由化運動「プラハの春」に、ソ連軍を中心とするワルシャワ条約機構軍が介入した)。私たちは昔から、ロシアが危険な国であることを知っています。
親ロシア派でさえ報酬をルーブルで受け取らない
世界のどの国の人にとっても、本当に重要なのは毎日買うものや必要なものです。だから私たちは中国を尊敬するし、日本、スウェーデン、フランス、ドイツ、アメリカを尊敬する。実際に物を作っている国々だからです。何も作らない国には敬意を払わない。それはソ連がチェコスロヴァキアを支配していたときもそうでした。人々はロシアの歌を聴かなかったし、ロシアの本も読まなかった。貯金をルーブルで持つこともなかった。
私は普段から、貯蓄をどの通貨で持っているかは、誰が信用できるかという最も重要な指標だと人々に話しています。ロシア以外の世界のどこにも、家族の貯蓄をルーブルで持っている人はいないと思います。日本円や米ドルやユーロ、あるいは(チェコの通貨である)コルナで貯蓄をしている。ロシア以外でルーブルを持っている人を私は知りません。
インターネットで検索すれば、「ボイス・オブ・ヨーロッパ」のスキャンダルに関する記事を見つけることができるはずです。チェコの情報機関がロシアの影響工作を捜査して、「ボイス・オブ・ヨーロッパ」というニュースサイトがロシアからの資金でプロパガンダを広めていたと公表し、ヨーロッパでは大きなスキャンダルになりました。チェコの情報機関の捜査をきっかけに、ドイツ、ベルギー、その他のヨーロッパ諸国にも、親ロシア派の意見を広めるためにロシアから報酬を得ている政治家のネットワークがあることが発覚したのです。
それらの政治家やジャーナリストは皆、ロシアから報酬を得ていました。ただし重要なのは、全員がユーロで報酬を受け取っていたということです。ヨーロッパの親ロシア派の政治家たちがユーロでの支払いを望む限り、私は心配しません。もしも彼らがルーブルでの支払いを望み始めたら私は心配するでしょうが、今のところ誰もルーブルを欲しがらない。ロシア人でさえルーブルなんて欲しがらないのですから(笑)。でも、これは本当に重要なことです。
――最後に何か、日本の読者に伝えたいことはありますか。
日本が属するグローバルな西側諸国、つまりヨーロッパ諸国、アメリカ、オーストラリア、そして日本が、おそらく私たちが認めている以上に互いに協力的な敵対勢力に直面していることは、もうはっきりしていると思います。ロシア、中国、イラン、北朝鮮です。彼らの関係が「同盟」だとは思いませんが、一方で私たちの想像以上に彼らは協力し合っているはずです。彼らのうち誰かが成功を収めれば、それは他の地域においても大きなトラブルを引き起こすでしょう。
だからこそヨーロッパは以前より中国や北朝鮮に注意を払うようになったし、日本でもウクライナ情勢が大きな話題になったのだと思います。私たちは基本的に同じ陣営にいます。再び危険な世界が訪れた。しかし、私たちはなんとかそれを乗り越えることができるでしょう。私はそう楽観視しています。
◎ヴァーツラフ・バルトゥシカ(Václav Bartuška)
チェコ共和国外務省エネルギー安全保障担当特命大使。1968年プラハ生まれ。カレル大学社会学部卒。チェコスロヴァキア共産党の一党支配を終結させた1989年の「ビロード革命」で、学生リーダーの一人として中心的な役割を果たした。秘密警察に拘束された経験から、民主化後の国会で秘密警察調査委員会に選出される。チェコがEU議長国を務めていた2009年1月のロシアとウクライナ間のガス紛争中、両国とEUで行われた交渉に携わった。2006年より現職。
◎新潮社フォーサイトの関連記事
・有罪評決で「トランプに投票する可能性は低くなった」のは共和党員の「10人に1人」
・自民党の大スポンサー「経団連」とは一体何なのか 「会長選びの実態」から「政治献金のカラクリ」まで…知られざる内情に迫る
・学校も入試もリスキリングも…教育を支配する「ベネッセ」の正体 驚くべき“問題営業”と“癒着”の実態とは