長期金利が上昇しているのにドル/円相場が変わらないワケ

 もっとも、こうした日銀からの情報発信を受けて日本の長期金利が騰勢を強め、日米金利差の拡大が抑止されている状況にもかかわらず、ドル/円相場の上昇基調は大して変わっていない。

 日銀の利上げ単体では円ショートを解消する材料には至らず、米FRB(連邦準備理事会)の利下げとセットで打ち出されて初めて投機筋を動かすだけの材料として昇華されてくるのではないか。

ドル/円相場と日米金利差

 日銀が正常化に至るにあたっての理由(労働市場の構造変化)は釈然としないものがあったが、利上げ路線自体は持続すると考えて良いのだろう。

 しかし、それと円安地合いの反転はさほど関係がなく、むしろ労働市場の構造変化に根差したデフレからインフレへの転換を背景として、「デフレ通貨は上昇する」から「インフレ通貨は下落する」という理論的に考えて当然の局面変化が起きつつあると考え方もあって良いだろう。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年5月28日時点の分析です

【著者の関連記事】
円安反転のために金利上昇を受け入れる日本、利払い不安に伴う円、国債、日本株のトリプル安も現実味
円安抑止の処方箋、NISA国内投資枠の導入で「家計の円売り」は抑えられるか?
レパトリ減税は円安抑制の妙手となるか?企業が稼いだ海外利益の還流は「最後の砦」に
データ上も進む世界経済の分断と減速、IMFの世界経済見通しで再び注目されるスローバリゼーション
【米CPIと1ドル153円台の読み方】米国のインフレ率は「でこぼこ道」にいるのか、「再燃の入口」にいるのか
【円安トレンドに変化なし】「貯蓄から投資」で海外に流出する個人金融資産、最新の資金循環統計で浮き彫りに
名目GDP600兆円が視野に入る日本の「名実格差」、インフレに負ける実質成長、株高に透ける中進国転落の可能性
【日経平均・最高値更新の読み方】株高も円安も、不動産や高級時計の値上がりも、すべてインフレによる必然の帰結
円安を調整するのはインフレ経済か?人手不足と賃金上昇はもはや既定路線の日本経済
今の日本は「仮面黒字国」、戻らぬ円とデジタル農奴がもたらす終わりなき円安
新NISAに伴う家計の円売りは根も葉もある憶測、東日本大震災後の超円高の教訓
デジタル赤字だけではない「もう一つの赤字」が食いつぶすインバウンドの黒字
今年の円高・ドル安は長期円安局面の小休止か、既に転換した「円高の歴史」
当然ではなくなった米利下げで円高の常識、「強い円」の歴史は繰り返すのか?
NISAとiDeCoで動き出す資産運用立国、「貯蓄から投資」で始まる円売り圧力
※他多数。詳しくは著者ページをご覧下さい。

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。