2020年3月、ICCは、アフガニスタン紛争に関する米軍の戦争犯罪疑惑について捜査を進める判断を下したが、トランプ政権は猛反対し、ICC職員に制裁を科した。アフガニスタンはICCに加盟しており、ICCの管轄権の対象地域である。

 2022年3月には、ロシアのウクライナ侵攻に伴う戦争犯罪、人道に対する犯罪について、ICCはプーチン大統領とマリア・リボワ・ベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)に逮捕状を発行した。ロシアもウクライナもICCの未加入国であるが、ウクライナはICCの管轄権を受託しており、それがICC検察官の捜査につながったのである。

 アメリカは、このときにはICCの決定を支持しており、二重基準だという批判も起こっている。ロシア内務省は、ICCに反発し、カーン主任検察官を指名手配した。

戦時国際法、戦争犯罪とは

 戦時国際法(近年は「国際人道法」と呼ぶのが一般的だが)は、武力紛争の危険から民間人などの非戦闘員を保護するためのものである。紛争当事者は、民間人や民用物への被害を最小限に抑える努力が求められる。

 戦時国際法に違反する軍隊構成員や文民については、交戦国は戦争犯罪人として処罰することができる。具体的には、禁止された武器の使用や捕虜の虐待である。それに加えて、20世紀になって、平和に対する罪、人道に対する罪も処罰されることになり、戦争指導者が対象となった。第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判や東京裁判がそうである。

 しかし、このような戦争犯罪対象の拡大については、ニュルンベルクや東京での裁判が戦勝国によって行われたことから、その公平性に大きな疑義が持たれた。国際連合そのものも戦勝国による「国際クラブ」であり、敗戦国は除外されていたのである。

 ニュルンベルク裁判や東京裁判のようにアドホックに設置される裁判と異なり、常設の裁判所としてICCが設立されたのである。

 ウクライナ戦争、そしてガザでの戦争が続く中で、非戦闘員の保護、捕虜虐待の禁止のように慣習法的にも定着したルールは守る必要があるが、戦争指導者への責任追及などは容易に結論を出せる課題ではない。勝者の論理、力の論理が支配する世界は終わらない。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)、『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)、『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)、『都知事失格』(小学館)、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)、『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。

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