記者会見で説明するホンダの三部敏宏社長(写真:筆者撮影)

ホンダは5月16日、2030年度までの10年間にEV(電気自動車)やソフトウエアなどに10兆円を投資することを発表した。だが、戦略の要となる「包括的バリューチェーン」において、「ホンダらしさ」とは何か、具体像が見えてこない。(JBpress)

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 ホンダの将来像が、はっきりと見えてこない。ホンダが2024年5月16日に東京・青山の本社で実施した「2024 ビジネスアップデート」の会見に参加して、そう感じた。

 配布された参考資料には、ビジネスアップデートの説明概要として「電動化に向けた取り組みの方向性と財務戦略について」というサブタイトルが記載されている。

 その表現通り、記者会見は財務戦略が主体という印象だ。

 会見の冒頭、三部敏宏社長は「私が社長に就任して、早いもので3年が経過した。毎年期初に定例で、ホンダの取り組みの進捗をお伝えする機会も、今回で4回目となる」と振り返った。過去3回の説明会とは、社長就任会見(2021年4月)、四輪電動ビジネス説明会(2022年4月)、そして2023ビジネスアップデート(2023年4月)である。

2030年までの10年間で10兆円を投資する(写真:筆者撮影)
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 この3年間で、ホンダが目指す将来に関する説明は段階的に具体化してきた。今回は特に財務戦略が強調され、事業領域としては電動化に話を絞った。

 電動化においては、電池技術や車体開発、そして近年SDV(ソフトウエア・デファインド・ヴィークル)と呼ばれることが多くなった知能化の分野への新たな投資が必須であるため、「ビジネス戦略=財務戦略」という色合いが濃くなるのは当然だと思う。

ホンダ本社1階に展示された、FCEV(燃料電池車)のCR-V(写真:筆者撮影)

 これら分野に対する具体的な投資規模は、2030年度までの10年間に総額10兆円とした。

 内訳は、次世代のEV専用工場を含む生産領域や二輪車の電動化・新たな四輪車の開発などに約6兆円。バッテリーを中心とした新たなEVの「包括的バリューチェーン」の構築に約2兆円、SDV関連に約2兆円を充てる。

 製造するクルマの中長期ロードマップでは、2040年にグローバルでEV(電気自動車)・FCEV(燃料電池車)100%、その通過点として2035年に同80%、2030年同40%(EV200万台)という、過去3年間で一貫して示してきた数値目標を維持する。

 この目標達成に向けて、2020年代中盤から後半までは、量産効果によって利益率が高まるハイブリッド車の販売比率を上げることを「稼ぐ力」を強化し、それを原資にEV開発に投資するというシナリオだ。