消えていくコミュニティの「葬送」
木村が写し撮った風景や会話の中で紡ぎ出される言葉は、何と言うことのない日々の営みに過ぎない。だが、「歴史」と言われるものの大半は、そういったとりとめのない日常の積み重ね。放っておけば消えていくものだからこそ、あえて遺す価値があると考えた。
もう一つは、消えていくコミュニティを私たちのやり方で送りたいと考えたため。
この10年、賑わいを取り戻そうと島民や牟岐町はアートイベントなどの取り組みを進めてきた。それが奏功して移住者が増えた時期もあったが、コロナ禍によって活動はストップしてしまった。イベントで走り回った島民も70代、80代になり、これまでと同じように動くのは難しいかもしれない。
もちろん、新たな移住者や島に縁のある人が戻ってきて再び賑わいを取り戻すという未来もあるが、足元の状況を見る限り、難易度は高い。であるならば、今この瞬間の断面を記録し、遺すことに社会的な意味があるのではないか──。そう感じたことも、プロジェクトを立ち上げた理由だ。
この記事で使っている写真は、滞在期間中に木村が撮影したものや、出羽島の田中幸寿氏が所蔵していたもの。その成果は、今年7月に写真集として出版する。
言葉は書き留めなければ、口に出した途端に空気の中に溶けていく。日々の営みも、語り伝えていかなければ、忘却の彼方に消える。語り継ぐべき島の記憶を数回にわたって振り返っていく。
【著者からのお知らせ】
写真集『TEBAJIMA』の出版にあたりクラウドファンディングを実施します。詳細はReadyforの以下のサイトをご確認ください。
◎消えつつある離島の記憶を残したい!写真集制作プロジェクト(Readyfor)
篠原 匡(しのはら・ただし)
編集者、ジャーナリスト、ドキュメンタリー制作者、蛙企画代表取締役
1975年生まれ。1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長を経て、2020年4月に独立。著書に、『神山 地域再生の教科書』(ダイヤモンド社)、『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)、『グローバル資本主義vsアメリカ人』(日経BP)、『腹八分の資本主義』(新潮新書)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)、『神山プロジェクト』(日経BP)、『House of Desires ある遊郭の記憶』(蛙企画)、『TALKING TO THE DEAD イタコのいる風景』(蛙企画)など。『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』で生協総研賞、『神山 地域再生の教科書』で不動産協会賞を受賞。テレ東ビズの配信企画「ニッポン辺境ビジネス図鑑」でナビゲーターも務めている。