高齢者になると、医療・介護が気になってくる。質の高い医療・介護施設が近隣にあることが安心と安全を保障する。買い物や娯楽の便を考えても、高齢者は都心に回帰する。

保守政治が推進した持ち家政策

 マイホーム志向の強さは、戦後の保守政治と深い関係にある。高度経済成長に伴って住宅需要が増え、賃貸住宅も増えるが、賃貸に住む有権者は自民党ではなく、社会党などの革新政党を支持する傾向が強かった。そこで、危機感を抱いた自民党は、持ち家政策を推進したのである。マイホームを持つと、資産を守るために保守志向が強まるからである。

 こうして推進した持ち家政策によって、優良な賃貸物件は増えず、「持つ」か「借りる」か、という二者択一のうち、多額なローンを組んででも前者を選ぶ日本人が圧倒的に多くなった。これが、今の住宅過剰社会につながっている。

 海外では優良な賃貸物件が多く、「借りる」という選択をする人も多い。それは、「木の文化」と「石の文化」の違いのみには還元できない。日本でも、第二次世界大戦前は、賃貸が大きな比率を占めていた。やはり、持ち家政策推進という保守政党の政策によるところが大きいと言わねばならない。

 東京を例にとってみよう。戦後の高度経済成長時代のサラリーマンの夢は、緑あふれる郊外に、庭付きの一戸建てのマイホームを持つことであった。専業主婦の妻が家を守り子育てに専念し、夫は長時間の満員電車での「痛勤」にも耐えてローンの支払いに精を出した。大学も都心から郊外へと移転した。

 しかし、この流れは逆転し始めている。若いカップルは、夫婦共稼ぎが普通である。長時間の通勤で失われる時間とエネルギーを考えれば、その分住居費に上乗せしても都心に住む。たとえば豊洲の高層マンションである。さらに、今後は、郊外の一戸建てを処分した高齢者が参入する。都心への人口集中は避けられない。大学も都心に回帰している。

 60歳で定年退職後、20年間を生き抜かねばならない。10軒に4軒が単身者という社会を想像してみるがよい。社会保障政策も根本から考え直さないと、医療・介護費は鰻登りである。2022年の年間死者数156万人であるが、1989年の2倍になっている。2040年には、現在より167万人となる「多死社会」になる。在宅死を望んでも、いま日本人の8割は病院で死ぬ。看取りの場としての病院も、墓も満杯になってしまう。

 その他の点でも、20年後の日本社会は様変わりする。空き家問題は、この大きな変化への警鐘である。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)『都知事失格』(小学館)『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。

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