日本銀行は、3月の金融政策決定会合でマイナス金利の解除など金融政策を大きく転換した。これをもって報道などでは金融政策の「正常化」という表現が使われたが、植田和男総裁は「普通の金融政策」と表現した。この「普通」という表現を踏まえ、金融政策の現在地をどう理解すべきなのか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
「普通=政策対応が不要な均衡状態」ではない
日本銀行の植田和男総裁は、マイナス金利解除などの政策変更を行った3月の金融政策決定会合後の記者会見で、「正常化」という言葉を避け、「普通の金融政策」と言及した。
具体的には、今後の短期金利の設定の仕方について、「普通の短期金利を政策手段にしている他の中央銀行と同じように設定していく」と述べ、それを「普通の金融政策」とした。そして「緩和的な環境を維持するということが大事だという点は留意しつつ、普通の金融政策を行っていく」と繰り返している。
裏返すと、これまでは普通でない金融政策が行われてきたことになるが、それは日本経済が普通の状況ではなかったとの判断に立ってのことだろう。「普通」という言葉が出てくる前提として、新しい局面に入ったという認識があるはずだ。
では、「普通の日本経済」とはどのようなものか。
日本銀行は、2%のインフレはまだ確実なものではないとの判断を示しており、それが確かになっていく過程で短期金利を引き上げていく可能性がある点に言及している。したがって、「普通」の意味は、追加的な政策対応が必要のないある種の安定的な均衡を指しているわけではないようだ。
市場経済においては、それこそ普通は景気循環がある。多くのマクロ経済モデルでは、長期的な均衡が、一定の均衡成長率、均衡インフレ率、完全雇用失業率などが実現される状態として表現される。実は、普通の景気循環を、恣意性を排除して客観的に経済モデルで示すことはなかなか難しい。
しかし、普通の金融政策が直面するのは、何らかの景気循環がある経済だ。需給ギャップが、時間の経過に沿って引き締まったり緩んだりを繰り返すような経済である。